勇者学園 エルシオン〜BLAVESCHOOL EL-ZION〜 第二話
勇者学園 エルシオン〜BLAVESCHOOL EL-ZION〜
第二話 ふたつの邂逅
「ぐ…ぐううっ!」
白い翼を持つ巨大な勇者部のロボット。だがその巨体は、二つの頭と四つの腕、脚を持つ悪の秘密結社同好会のロボット…いや、ロボットのような「モノ」に、その首をつかみとられ、掲げられていた。
「な、なんて力だ…っ!」
『熾苑さん、このままでは危険ですっ! なんとかふりほどいてくださいっ!』
オペレーターの弥生の悲痛な通信が入る。
「くそ…っ!」
「いいのか?」
その戦いの場所よりいくぶん離れた場所で、ふたりの男が対峙していた。
銀色の髪に、風紀委員専用の白い制服を着た少年と、マントを羽織った男…ヤタガミだ。
「貴様らの手駒が、このままではスクラップだ…もっとも、貴様には見ているだけしか出来ぬだろうが、あの時のようにな!」
「何故だ…兇介! なぜこんな事をする!
なぜお前が…「そこ」にいる!?
なぜ今になって! なぜだ!?」
対峙する少年、王岬瞬(おうさき・しゅん)は、ヤタガミに叫ぶ。その声にヤタガミは、ただ笑う。
「…何故、だと?
復讐に決まっている!
貴様らへのな!」
ズガァアアアン!
勇者が、地面に叩き付けられた。
「忘れたとは言わせんぞ…我らはあの時誓った!
貴様らへの復讐!
生徒会への復讐!
正義への復讐!
全てへの復讐!! 我らは誓ったのだ…貴様らの計画! 貴様らの正義!
その全てを!
ことごとく叩き潰すと…そのために!
我々は…「悪の秘密結社同好会」は、そのためにこそ存在するのだから!」
悪の秘密結社同好会のロボットが、吠えた。
第二話 ふたつの邂逅
陽の光が、ガラス越しに緑の木々に降り注ぐ。
時折開け放たれた窓から、華の香りに誘われてか蝶が舞い込んできた。
「…迷子か?」
木々に水をやりながら、赤い髪の少年は蝶に話し掛ける。
「それとも食事…か?」
差し出した指に、蝶が止まる。ゆっくりと羽を動かす蝶を見て、少年は優しく笑った。
その時。
どん! ばきばきばきばきっ!
「?」
どさぁっ!
「うわ!?」
彼の前に、温室の天井の窓から、人間が落ちてきた。
「いててて……なんとか逃げられたみたい…」
髪や服に葉や枝をつけながら、落ちてきた人間…熾苑はつぶやく。
「……」
そのいきなりな光景を、彼は呆然と見詰める。ややあって、熾苑がその視線に気づく。
「…あっ、ご、ごめんなさい!」
赤面し、あわてて誇りを払って誤る熾苑。だが、その顔を見て、
「…? 星哉くん…?」
「なんで俺の名前を…」
熾苑の顔がぱぁっ、と明るくなる。
「やっぱり! 間違いない、星哉くんだぁっ!」
がばぁっ、と熾苑はその少年、暁星哉(あかつき・せいや)に抱きついた。
「ま、まさかお前…熾苑か? 孤児院で一緒だった」
「うん、ボクだよ! びっくりしたなぁ、生徒会のひとから逃げてたら足滑らせて温室に落っこちたんだけど、まさかそこで星哉くんに会えるなんてっ! すっごい偶然だね!」
「ああ…って、生徒会から逃げてた? なにかやったのかお前?」
「ううん、なにも…話せば長くなるんだけど」
その時、
ガッシャアアアアアン!
植木蜂の割れる音が響いた。星哉と熾苑がその方向を見ると、眼鏡の少女が植木蜂を落としていた。
「城…?」
「…え? ひょっとして、なにか誤解されちゃった?」
確かに、抱きついた後で手を握っていたそんな状態では、あらぬ誤解も受けるだろう。だが、
「ししししししししししおしおしおしお」
「?」
ふたりが怪訝な顔で見守る中、
「ナマ熾苑ちゃんがこんなところにぷほ――――――――っ!!!」
わけのわからない寄生を発しつつ、城叶慧(じょう・かなえ)は鼻血を噴きつつ興奮してぶっ倒れた。
「景品っ!?」
「そうだ」
勇者部部室で、邪悪な笑顔を見せて神楽が言った。
「アレだ、勇者部で実戦で戦える勇者は今ンとこ君だけだからねぇ。
人員増強のためにね。いっちょ、武闘大会でも開こう、と。そこで商品なんだけど、それがこれっ!」
ばん! とチラシをテーブルに叩きつける。
そこには、
『景品:アイドル歌手神代熾苑ちゃんとの一日デェト権』
と、かわいらしい文字で書かれていた。
「がんばれ勇者☆」
「だぁああああっ! がんばれるかぁああっ!」
☆付きでかわいらしく(もっともはたから見るとキモいだけだが)喋る神楽に、机を一徹ちゃぶだい返しでつっこむ熾苑。
「あらやだこわい」
「弥生ちゃんっ! なんとか言ってよっ!」
自席で紅茶を飲む弥生に叫ぶ。が、
「デートですか、羨ましいですね☆ わたし、そういうの経験なくって」
と見当違いの返答を帰す。
「だぁぁ……っ」
「いーじゃん、減るもんじゃないし」
「減るかもしれないじゃないっ!
だいたいボクの人生初のデートがそんなのって嫌だよっ!」
「どしても?」
「どうしてもっ!」
「ふーん…」
ぜーぜーと息を切らす熾苑に対し、神楽は冷静だ。
そして、ばっ、と扇子を開く。
「なら、しかたがないねェ…」
嫌な予感がする。熾苑はそう思い、そしてその刹那、
「ボク帰るっ!!」
脱兎のように逃げ出した。
「ええい逃がすな、協力者の生徒会諜報部隠密部隊諸君っ!
ひっ捕らえろぉぉおおっ!」
「…というわけなの」
回想シーン終りである。無論、自分が勇者部員だということははしょって話してある。
「大変だな、アイドルってのも…」
寝ている叶慧の額に濡らしたチオルをかけ、星哉は言った。
「ん。…その娘は?」
「ああ、うちの…園芸部の部員だ」
「ふーん、てっきり恋人かと思っちゃったけど」
いじわるな笑顔を浮かべて熾苑は星哉を見た。
「そういうお前はどうなんだ?」
あっさりと流す。
「ボク? そ、そそそそんなの、いないけど…」
「わかりやすいな、お前…」
星哉は苦笑する。その時、「ん…」と声を上げ、叶慧が目を醒ました。
「…星哉さん…? あ、あのわたし夢見てました。し、熾苑ちゃんが目の前に…」
「夢じゃ、ないけどな」
そう、熾苑を指す。熾苑はそれを見て、えへへと手を振る。
「…」
しばし沈黙。
「さっ! さささささささささサインをッッッッ!! くっくだくだくだ!」
「落ち着け城」
げす。
脳天にチョップ。
「〜〜〜〜〜〜〜!!」
目に涙を浮かべて無言で泣きながら抗議する。
「…そういえばお前はアイドルファンだったな…」
ため息を付き、星哉は熾苑に振り向く。
「すまん、こいつにサインくれてやってくれ」
幸せそうな顔でサインを抱きしめる叶慧を尻目に、星哉は話し始める。
「…すまんな。しかし、まさかお前がアイドルになっていたとは」
「あー、そんな始めて知ったような顔して。テレビとか見てないの?」
「見てない」
「うあ…ちょっとショック」
「…ま。昔から歌は好きだったのは知ってるが、多少驚いたぞ」
「まあね、夢…だったから」
そう答える熾苑を、星哉はやさしい顔で見つめる。
「…出てやろうか? その大会、って奴」
「ほへ?」
予想しなかった答えに、熾苑はまぬけな声で返答する。
「それで俺が優勝すれば、そのデート権とやらは誰にも渡らない。
その部…勇者部だっけ? てきとーに理由つけてすぐに辞めればそれで済む話だしな」
「そんな、そんなことさせられないよ!」
「俺がしたいからするだけだ、気にするな」
「で、でもそれって……ひょっとして星哉くん……
ボクとデート…したかったりする?」
少し顔を赤らめつつ、指をいじったりなんかして熾苑は言う。だが、
「全然。」
すげェ笑顔で星哉はずっぱりと言ってのけた。
直後、熾苑の右アッパーが炸裂し、星哉の身体は回転しつつ宙を舞った。
「な…なんでそういうコト言うかな君わっ!」
「正直に答えただけだろうっ!」
「む、昔っからそーゆートコ変わってないな君わっ!」
「お前こそひとをぽんぽん殴るなっ!」
はたから見たら痴話げんかと間違われそうな口論を始め出したその時、ふたりの間に叶慧が割り込む。
「では! せ、星哉さんが優勝した場合、そのデート権は私がもらっていいですかっ!?」
…。
どうにも、普段は内気で控えめなこの女も、ことアイドルうんぬんになると暴走して始末に終えない。
だが、今回は、ふたりの気持ちを落ち着かせるのに充分な効果を発揮させたようである。
…単に、空気を読まずに「引かせた」だけかもしれないのだが。
「…」
「…」
案の上、時間が止まっていた。
「女性を賞品にするなど、私は納得いたしかねます」
生徒会と対を成す、風紀委員会。その一室で、旋夜達真(つむじや・たつま)は言った。
「このようなイベントを容認するなど! これでは学園の風紀が」
「わかっている」
「副風紀委員長っ!」
達真は、目の前の女性に言う。
「…だが安心しろ。それは実質、ただの飾りにすぎん」
「…?」
「生徒会、勇者部とも話はついてある。旋夜達真、お前がそのトーナメントに出て優勝するのだ」
「…なんですって?」
「お前に、勇者部に入れ、と言っている。」
「僕に…?」
「そう。風紀委員会からの監査役も兼ねてな。すでにお前のソウルギアも手配済みだ。お前が優勝すれば、少なくとも彼女は好まないデートをせずに済む」
「…副委員長。僕がそのデート権を行使するという可能性は考えないのですか?」
「それはないな」
あっさりと断言する。
「お前は相手のことしか考えていないからな、女性に対しては。相手が望まぬ事をする男ではないだろう」
「…誉め言葉として、受け取っておきます。
では任務、了解いたしました。旋夜達真、勇者部新入部員選定トーナメントに出場し、見事優勝して、神代熾苑嬢を劣悪なる男どもの魔の手から見事守ってみせましょう」
「達真くん、本気? 漁業部はどうするのさ」
「だーっ! いいのいいのんなこたぁ!」
眼鏡をかけて大人しそうな少年、上月忍(こうづき・しのぶ)と、髪を逆立てた気の強そうな少年三七海章悟(みななみ・しょうご)が会場へと足を進める。ちなみに章悟は、なぜか上半身はセーラー服。女装趣味のヘンタイ、というわけではなく、「海の男だから」らしい。
「あの時オレを助けてくれた勇者部のカワイコちゃんっ! く〜っ、その娘と一緒に戦えるんだぜぇ!? 勇者部になりゃあよ! だったら迷うこたぁねぇ!
それに優勝者には神代熾苑ちゃんとのデートっ!
これで萌えなきゃ男じゃねぇっ!」
達真くん、動機が不純…」
「やっかましぃっ! 男として至極当然だろぉっ!?」
「二兎追うものは一兎をも得ず、って言葉あるんだけど…」
「なんか言ったか?」
「…はぁ、なに言っても無駄か…で、なんで僕まで出場しなきゃならないの?」
「決まってるだろうっ! 一人じゃさびしいからだッッッ!!」
「……中学からのの付き合いだけど、いまだに君がわかんないよ…」
忍は汗をかきながら、しぶしぶ章悟のあとについていく。
(…まあ、確かに僕としても、潜入するにはそれが一番なんだけど…)
忍は数日前を思い返す。
「勇者部…ですか?」
「うむ」
忍者部の部室で、部長が言った。
「件の「悪の秘密結社同好会」は知っているだろう。それに対抗するための部活らしい。
だが、色々と不可解な点も多いのでな。
あの巨大からくり人形や、魔性の着衣。あやしげなモノは我ら忍びの者の専売特許ゆえに…」
「部長、じゃなくて頭目…それちょっと違います」
「…ごほん。ではなく、上の方々より依頼があってな。
我らに勇者部を調査しろ、との事なり。
そこで、我ら忍者部の中でも腕利きのそなたに、潜入調査を命じたい。
頼まれてくれるな、『月影』よ…」
「忍っ!?」
「…え!?」
「え、じゃねーよ。ほら、とっとと名前かけっての」
「あ、うん」
章悟に言われ、申し込み用紙にサインする。
「はい、オッケーです。がんばってくださいね♪」
受付嬢をやっている弥生が笑顔で答える。
「あ、はい」
「なーにやってんだよ! とっとと行くぞ!」
すでに遠くで章悟が呼ぶ。忍は弥生にぺこりと頭をさげると、章悟の方に走っていった。
『遙香、今回の取材は我々の仕事ではなかったと思うが』
「いいのよそんなこと。事件は会議室じゃ起こらないんだからっ!」
『その発言、理解不能』
「あったま硬いわね…」
『私はただのコンピュータだ、柔軟な思考を期待するほうが理解不能だと思うが、遙香』
「はいはい…」
会場を見ながら、遙香はパルスボーイと話していた。
『例の勇者部、か遙香。彼らを取材のターゲットにしているようだが…』
「わかってるんなら口出さない。あたしの天才的直感では、きっと今回も何かが起こるのよっ!」
『直感か…理解不能』
「ねぇ、兄さん」
「何かな?」
「この格好、何…?」
大きな優勝カップの中に、リボンで簀巻きにされて熾苑は言った。
「景品は黙ってなさいね」
あっさりと言い返す誠一郎。
「むー…」
「しかし……」
誠一郎は、すでに始まった大会を見る。
その特設ステージで戦っている生徒の中にある、星哉の姿を確認する。
「ふふ、まさか彼が…ね。しかも学長の養子、とは…これだから人生は面白い。
そうは思いませんか? 会長」
「ああ、面白いな」
生徒会搭の地下、暗闇の中照らされるモニターを見て、一条織華(いちじょう・おりか)生徒会長は言う。
そこには、生徒会最強四大幹部の姿も在った。すなわち、
副会長・二葉丈威(ふたば・じょうい)、
書記長・三ノ宮緋那緒(つんのみや・ひなお)、
会計統括・四ツ谷顕市(よつや・けんいち)、
庶務統括・五十嵐柾登(いがらし・まさと)である。
「どうです会長? 今回の趣向は」
そこにいたもうひとりの男、勇者部部長である神楽が言った。
「例の「適格者」であろう生徒の目星はすでについており、それらが大会に参加している事も弥生ちゃんの報告から確認済み。
ま、「彼」もそうだとするならば四人、ですがね。
すでにソウルギアおよびソウルマシンの手配も完了しています。
貴女の計画は、全て順調に進んでおりますよ」
そうして、別のモニターを見る。
そこには、達真、章悟、忍の姿が映し出されていた。
「後は、リークした情報をもとに侵入している仔猫と仔兔をひきずり出せば…」
悪役が似合う笑顔で笑う。そして、モニターにまたひとつ映像が浮かんだ。
「その時は、彼らのお披露目となるでしょう」
それは、ドリルのついた銀色の戦車、漆黒のヘリコプター、蒼いクルーザーであった。
「…」
ふと、柾登が周囲を見回す。
「なあ、王岬の奴は?」
王岬、それは風紀委員長王岬瞬である。
「知らん」
二葉があっさり返すが、神楽がその問いに答える。
「ああ、彼なら久しぶりに旧友に会いに言ったのでは?」
「旧友…?」
「ええ。「あの事件」の被害者…とでも言っておきますか。我々に、ひどく恨みを持っている」
いつもの軽薄なノリではなく、ひどく落ち着いた声で神楽は言った。
「過去の過ち…か…」
織華もそうつぶやき、そしてモニターに再び目をやった。
その頃、会場では異変が起こっていた。
それは、
「この会場は、我々悪の秘密結社同好会が乗っ取ったぁ! にゃ」
という、可愛らしくも恐ろしい言葉と共に始まった。
「ふっふっふ、前はあっさり負けちゃったけど、今回はがんばって汚名挽回だにゃ!」
「その意気ですわ先輩☆
あ、ちなみにどうでもいいことですが、
汚名は返上であって挽回じゃないですわよ☆」
悪の秘密結社同好会怪人、シザーキャットとブラッドバニーであった。
足元には彼女らの足元にはすでに何人かが倒されている。
「ああっジョニー!」「マジかよおい…」
参加者たちが口々に言い合う。みな、あまりの出来事に立ちすくみ、腰が引けていた。
たった4人を除いて。
「なんだあいつら…!」
「あれが、悪の秘密結社同好会…? どうする章悟くん!」
「決まってんだろが! 力づくで…」
「でもこないだ、あのネコミミの女の子に手も足も…」
「う゛っ! そ、それは…」
控え室でその光景を章悟たちは見ていた。
「…、くそ。おいお前ら!」
章悟は、控え室の生徒達に言う。
「?」「なんだよ…」
「あいつら、ステージの上しか見てねえ。俺たちが一斉に出れば…」
だが、
「な…」「やだよ、あいつら相手にできっかっての!」
という腰の引けた返答ばかりだった。
「…なっ! てめェら本気かよ!? この大会に出たのはあいつらと戦うためじゃねぇのか!?」
「だってよ…」
「〜〜っ! もういい、てめぇらに期待したオレが馬鹿だった!」
章悟が切れる。だがその時、
「ああ、確かに馬鹿だな」
と声がした。
「ンなにぃぃぃいいいっ!?」
「だがそれでいい。馬鹿でなければ、勇者はつとまらない」
声の主は達真だった。
「なんだテメーっ!」
「君は…?」
章悟と忍が言う。
「風紀委員会、旋夜達真。お前達と同じく、勇者部となるために参加したものだ。そして…弥生さん」
「はい☆」
人垣の中から弥生が大きな鞄を持って来る。
「あんた、受付の…」
「勇者部オペレーターの五十六弥生です。以後よろしくお願いしますね」
「以後…?」
「奴らと戦う事になっても戦意喪失しないお前らが、選ばれたという事だ」
達真は言った。
「…僕と同じくな。お前らふたりとも、勇者ということだ」
「ふふふふふ、あのふたり張り切っておるではないか!」
ステージを見下ろせるビルに立ち、ヤタガミは笑った。
「もしもの時のために奴に頼んだが…もっとも、この調子ではそれもいらんかもしれんな。
そうは思わないか? なぁ……」
ヤタガミは後ろを振り返った。
「王岬瞬よ!」
そこに立っていた王岬が、ヤタガミを見据える。
「来ると思っていた。
そのために、あえて素顔をさらしていたのだからな…!」
「…兇介…っ!」
「ドリルクラックゲイザーっ!」
床板を砕き、回転を加えた衝撃波がシザーキャットに襲い掛かる。
「にゃっ!」
地を蹴り、寸でで回避する。だが、
「チェインクォースっ!」
「ふぎゃっ!」
飛来した「錨(いかり)」が、シザーキャットを横殴りに倒す。
どんっ!
「先輩っ!」
尻をしたたかに打ち、目尻に涙を浮かべるシザーキャットにブラッドバニーが駆け寄る。
カカカカカっ!
だが、彼女の影にに苦無(くない)が打ち付けられ、途端に体が動かなくなる。
「シャドウギアス…その苦無を抜かない限り、動けません」
悪の秘密結社同好会怪人コンビと戦っていたのは、達真たちだった…いや。
「悪いが、勇者部にはエンジェルフェザーだけではないのですよ」
銀に輝く鎧の騎士、スパイラルシルバー。
「すげぇぜこの服…力が内から湧き出る泉のようだ!」
水兵に酷似したセーラー服の戦士、ファングマリナー。
「でもいいのかな…僕達で」
漆黒の忍者、ムーンシャドウ。
それが、ソウルギアに導かれ「勇者」となった、三人の姿だった。
「かまわない。少なくとも、ソウルギアは誰でも操れるものではないからな…最低でも、あそこで震えている下衆どもよりはまだお前たちの方が数億倍マシ、ということだ。
そして…」
ドリル状に螺旋の入ったランスを倒れている二人に突きつける。
「敵とはいえ、これ以上女性を傷つけるのは忍びない。大人しく、投降してください」
「く…っ」
ビッ、ぎぢっ。
「硬結びだな…少し待て、すぐ切れる」
星哉はどうしたかというと、とっとと控え室から逃げ、景品台へと上がり熾苑を簀巻きにしているリボンを切っていた。
「星哉くん!」
「すまんな。ん? そういえば誠一郎はどうした?」
「逃げたよ…」
「そっか」
あの男ならありえる、星哉はそう思いそれ以上は聞かなかった。
「とにかく…ここは「あいつら」に任せて、早く引き上げよう」
「う、うん…」
その時。
声が響いた。
『…不甲斐ない!』
「――!?」
熾苑の背筋を、えもいわれぬ悪寒が走った。
会場中に響く、地の底から聞こえてくるような声。
『不甲斐ないなうぬらは…これでは彼奴が我に助を請うたのもまた頷けるものよ…ならば!』
「この声は…!」
シザーキヤットが上を見上げる。
「なんだあいつはっ!?」
「新手…っ!?」
そこには、
空中に浮かぶ、黒衣仮面の男が在った。
『うぬらに問う…』
(なんだあれ…いやな予感がする…)
熾苑は、その男を見る。
黒いマントを大きく風にはためかせ、それは悠然と彼らを見下ろす。
「悪の秘密結社同好会…闇刻神アーリマン…」
そう言ったのは誰であったか。
アーリマンは、低い雷鳴のような声で言った。
『――力が、欲しいか?』
…と。
続く
次回予告
力が欲しかった。それに彼は答えた。そして力を手に入れた。
ついに隠された力を見せる悪の秘密結社同好会のソウルギア!
その圧倒的な力の前に天使が地に落ちる時、
叫びを聞いて新たなる勇者が誕生する! その銀の刃の輝きを君は見る!
次回、勇者学園エルシオン第三話。
「聖剣の勇者」に・・・君も、ユナイト!
第二話 ふたつの邂逅
「ぐ…ぐううっ!」
白い翼を持つ巨大な勇者部のロボット。だがその巨体は、二つの頭と四つの腕、脚を持つ悪の秘密結社同好会のロボット…いや、ロボットのような「モノ」に、その首をつかみとられ、掲げられていた。
「な、なんて力だ…っ!」
『熾苑さん、このままでは危険ですっ! なんとかふりほどいてくださいっ!』
オペレーターの弥生の悲痛な通信が入る。
「くそ…っ!」
「いいのか?」
その戦いの場所よりいくぶん離れた場所で、ふたりの男が対峙していた。
銀色の髪に、風紀委員専用の白い制服を着た少年と、マントを羽織った男…ヤタガミだ。
「貴様らの手駒が、このままではスクラップだ…もっとも、貴様には見ているだけしか出来ぬだろうが、あの時のようにな!」
「何故だ…兇介! なぜこんな事をする!
なぜお前が…「そこ」にいる!?
なぜ今になって! なぜだ!?」
対峙する少年、王岬瞬(おうさき・しゅん)は、ヤタガミに叫ぶ。その声にヤタガミは、ただ笑う。
「…何故、だと?
復讐に決まっている!
貴様らへのな!」
ズガァアアアン!
勇者が、地面に叩き付けられた。
「忘れたとは言わせんぞ…我らはあの時誓った!
貴様らへの復讐!
生徒会への復讐!
正義への復讐!
全てへの復讐!! 我らは誓ったのだ…貴様らの計画! 貴様らの正義!
その全てを!
ことごとく叩き潰すと…そのために!
我々は…「悪の秘密結社同好会」は、そのためにこそ存在するのだから!」
悪の秘密結社同好会のロボットが、吠えた。
第二話 ふたつの邂逅
陽の光が、ガラス越しに緑の木々に降り注ぐ。
時折開け放たれた窓から、華の香りに誘われてか蝶が舞い込んできた。
「…迷子か?」
木々に水をやりながら、赤い髪の少年は蝶に話し掛ける。
「それとも食事…か?」
差し出した指に、蝶が止まる。ゆっくりと羽を動かす蝶を見て、少年は優しく笑った。
その時。
どん! ばきばきばきばきっ!
「?」
どさぁっ!
「うわ!?」
彼の前に、温室の天井の窓から、人間が落ちてきた。
「いててて……なんとか逃げられたみたい…」
髪や服に葉や枝をつけながら、落ちてきた人間…熾苑はつぶやく。
「……」
そのいきなりな光景を、彼は呆然と見詰める。ややあって、熾苑がその視線に気づく。
「…あっ、ご、ごめんなさい!」
赤面し、あわてて誇りを払って誤る熾苑。だが、その顔を見て、
「…? 星哉くん…?」
「なんで俺の名前を…」
熾苑の顔がぱぁっ、と明るくなる。
「やっぱり! 間違いない、星哉くんだぁっ!」
がばぁっ、と熾苑はその少年、暁星哉(あかつき・せいや)に抱きついた。
「ま、まさかお前…熾苑か? 孤児院で一緒だった」
「うん、ボクだよ! びっくりしたなぁ、生徒会のひとから逃げてたら足滑らせて温室に落っこちたんだけど、まさかそこで星哉くんに会えるなんてっ! すっごい偶然だね!」
「ああ…って、生徒会から逃げてた? なにかやったのかお前?」
「ううん、なにも…話せば長くなるんだけど」
その時、
ガッシャアアアアアン!
植木蜂の割れる音が響いた。星哉と熾苑がその方向を見ると、眼鏡の少女が植木蜂を落としていた。
「城…?」
「…え? ひょっとして、なにか誤解されちゃった?」
確かに、抱きついた後で手を握っていたそんな状態では、あらぬ誤解も受けるだろう。だが、
「ししししししししししおしおしおしお」
「?」
ふたりが怪訝な顔で見守る中、
「ナマ熾苑ちゃんがこんなところにぷほ――――――――っ!!!」
わけのわからない寄生を発しつつ、城叶慧(じょう・かなえ)は鼻血を噴きつつ興奮してぶっ倒れた。
「景品っ!?」
「そうだ」
勇者部部室で、邪悪な笑顔を見せて神楽が言った。
「アレだ、勇者部で実戦で戦える勇者は今ンとこ君だけだからねぇ。
人員増強のためにね。いっちょ、武闘大会でも開こう、と。そこで商品なんだけど、それがこれっ!」
ばん! とチラシをテーブルに叩きつける。
そこには、
『景品:アイドル歌手神代熾苑ちゃんとの一日デェト権』
と、かわいらしい文字で書かれていた。
「がんばれ勇者☆」
「だぁああああっ! がんばれるかぁああっ!」
☆付きでかわいらしく(もっともはたから見るとキモいだけだが)喋る神楽に、机を一徹ちゃぶだい返しでつっこむ熾苑。
「あらやだこわい」
「弥生ちゃんっ! なんとか言ってよっ!」
自席で紅茶を飲む弥生に叫ぶ。が、
「デートですか、羨ましいですね☆ わたし、そういうの経験なくって」
と見当違いの返答を帰す。
「だぁぁ……っ」
「いーじゃん、減るもんじゃないし」
「減るかもしれないじゃないっ!
だいたいボクの人生初のデートがそんなのって嫌だよっ!」
「どしても?」
「どうしてもっ!」
「ふーん…」
ぜーぜーと息を切らす熾苑に対し、神楽は冷静だ。
そして、ばっ、と扇子を開く。
「なら、しかたがないねェ…」
嫌な予感がする。熾苑はそう思い、そしてその刹那、
「ボク帰るっ!!」
脱兎のように逃げ出した。
「ええい逃がすな、協力者の生徒会諜報部隠密部隊諸君っ!
ひっ捕らえろぉぉおおっ!」
「…というわけなの」
回想シーン終りである。無論、自分が勇者部員だということははしょって話してある。
「大変だな、アイドルってのも…」
寝ている叶慧の額に濡らしたチオルをかけ、星哉は言った。
「ん。…その娘は?」
「ああ、うちの…園芸部の部員だ」
「ふーん、てっきり恋人かと思っちゃったけど」
いじわるな笑顔を浮かべて熾苑は星哉を見た。
「そういうお前はどうなんだ?」
あっさりと流す。
「ボク? そ、そそそそんなの、いないけど…」
「わかりやすいな、お前…」
星哉は苦笑する。その時、「ん…」と声を上げ、叶慧が目を醒ました。
「…星哉さん…? あ、あのわたし夢見てました。し、熾苑ちゃんが目の前に…」
「夢じゃ、ないけどな」
そう、熾苑を指す。熾苑はそれを見て、えへへと手を振る。
「…」
しばし沈黙。
「さっ! さささささささささサインをッッッッ!! くっくだくだくだ!」
「落ち着け城」
げす。
脳天にチョップ。
「〜〜〜〜〜〜〜!!」
目に涙を浮かべて無言で泣きながら抗議する。
「…そういえばお前はアイドルファンだったな…」
ため息を付き、星哉は熾苑に振り向く。
「すまん、こいつにサインくれてやってくれ」
幸せそうな顔でサインを抱きしめる叶慧を尻目に、星哉は話し始める。
「…すまんな。しかし、まさかお前がアイドルになっていたとは」
「あー、そんな始めて知ったような顔して。テレビとか見てないの?」
「見てない」
「うあ…ちょっとショック」
「…ま。昔から歌は好きだったのは知ってるが、多少驚いたぞ」
「まあね、夢…だったから」
そう答える熾苑を、星哉はやさしい顔で見つめる。
「…出てやろうか? その大会、って奴」
「ほへ?」
予想しなかった答えに、熾苑はまぬけな声で返答する。
「それで俺が優勝すれば、そのデート権とやらは誰にも渡らない。
その部…勇者部だっけ? てきとーに理由つけてすぐに辞めればそれで済む話だしな」
「そんな、そんなことさせられないよ!」
「俺がしたいからするだけだ、気にするな」
「で、でもそれって……ひょっとして星哉くん……
ボクとデート…したかったりする?」
少し顔を赤らめつつ、指をいじったりなんかして熾苑は言う。だが、
「全然。」
すげェ笑顔で星哉はずっぱりと言ってのけた。
直後、熾苑の右アッパーが炸裂し、星哉の身体は回転しつつ宙を舞った。
「な…なんでそういうコト言うかな君わっ!」
「正直に答えただけだろうっ!」
「む、昔っからそーゆートコ変わってないな君わっ!」
「お前こそひとをぽんぽん殴るなっ!」
はたから見たら痴話げんかと間違われそうな口論を始め出したその時、ふたりの間に叶慧が割り込む。
「では! せ、星哉さんが優勝した場合、そのデート権は私がもらっていいですかっ!?」
…。
どうにも、普段は内気で控えめなこの女も、ことアイドルうんぬんになると暴走して始末に終えない。
だが、今回は、ふたりの気持ちを落ち着かせるのに充分な効果を発揮させたようである。
…単に、空気を読まずに「引かせた」だけかもしれないのだが。
「…」
「…」
案の上、時間が止まっていた。
「女性を賞品にするなど、私は納得いたしかねます」
生徒会と対を成す、風紀委員会。その一室で、旋夜達真(つむじや・たつま)は言った。
「このようなイベントを容認するなど! これでは学園の風紀が」
「わかっている」
「副風紀委員長っ!」
達真は、目の前の女性に言う。
「…だが安心しろ。それは実質、ただの飾りにすぎん」
「…?」
「生徒会、勇者部とも話はついてある。旋夜達真、お前がそのトーナメントに出て優勝するのだ」
「…なんですって?」
「お前に、勇者部に入れ、と言っている。」
「僕に…?」
「そう。風紀委員会からの監査役も兼ねてな。すでにお前のソウルギアも手配済みだ。お前が優勝すれば、少なくとも彼女は好まないデートをせずに済む」
「…副委員長。僕がそのデート権を行使するという可能性は考えないのですか?」
「それはないな」
あっさりと断言する。
「お前は相手のことしか考えていないからな、女性に対しては。相手が望まぬ事をする男ではないだろう」
「…誉め言葉として、受け取っておきます。
では任務、了解いたしました。旋夜達真、勇者部新入部員選定トーナメントに出場し、見事優勝して、神代熾苑嬢を劣悪なる男どもの魔の手から見事守ってみせましょう」
「達真くん、本気? 漁業部はどうするのさ」
「だーっ! いいのいいのんなこたぁ!」
眼鏡をかけて大人しそうな少年、上月忍(こうづき・しのぶ)と、髪を逆立てた気の強そうな少年三七海章悟(みななみ・しょうご)が会場へと足を進める。ちなみに章悟は、なぜか上半身はセーラー服。女装趣味のヘンタイ、というわけではなく、「海の男だから」らしい。
「あの時オレを助けてくれた勇者部のカワイコちゃんっ! く〜っ、その娘と一緒に戦えるんだぜぇ!? 勇者部になりゃあよ! だったら迷うこたぁねぇ!
それに優勝者には神代熾苑ちゃんとのデートっ!
これで萌えなきゃ男じゃねぇっ!」
達真くん、動機が不純…」
「やっかましぃっ! 男として至極当然だろぉっ!?」
「二兎追うものは一兎をも得ず、って言葉あるんだけど…」
「なんか言ったか?」
「…はぁ、なに言っても無駄か…で、なんで僕まで出場しなきゃならないの?」
「決まってるだろうっ! 一人じゃさびしいからだッッッ!!」
「……中学からのの付き合いだけど、いまだに君がわかんないよ…」
忍は汗をかきながら、しぶしぶ章悟のあとについていく。
(…まあ、確かに僕としても、潜入するにはそれが一番なんだけど…)
忍は数日前を思い返す。
「勇者部…ですか?」
「うむ」
忍者部の部室で、部長が言った。
「件の「悪の秘密結社同好会」は知っているだろう。それに対抗するための部活らしい。
だが、色々と不可解な点も多いのでな。
あの巨大からくり人形や、魔性の着衣。あやしげなモノは我ら忍びの者の専売特許ゆえに…」
「部長、じゃなくて頭目…それちょっと違います」
「…ごほん。ではなく、上の方々より依頼があってな。
我らに勇者部を調査しろ、との事なり。
そこで、我ら忍者部の中でも腕利きのそなたに、潜入調査を命じたい。
頼まれてくれるな、『月影』よ…」
「忍っ!?」
「…え!?」
「え、じゃねーよ。ほら、とっとと名前かけっての」
「あ、うん」
章悟に言われ、申し込み用紙にサインする。
「はい、オッケーです。がんばってくださいね♪」
受付嬢をやっている弥生が笑顔で答える。
「あ、はい」
「なーにやってんだよ! とっとと行くぞ!」
すでに遠くで章悟が呼ぶ。忍は弥生にぺこりと頭をさげると、章悟の方に走っていった。
『遙香、今回の取材は我々の仕事ではなかったと思うが』
「いいのよそんなこと。事件は会議室じゃ起こらないんだからっ!」
『その発言、理解不能』
「あったま硬いわね…」
『私はただのコンピュータだ、柔軟な思考を期待するほうが理解不能だと思うが、遙香』
「はいはい…」
会場を見ながら、遙香はパルスボーイと話していた。
『例の勇者部、か遙香。彼らを取材のターゲットにしているようだが…』
「わかってるんなら口出さない。あたしの天才的直感では、きっと今回も何かが起こるのよっ!」
『直感か…理解不能』
「ねぇ、兄さん」
「何かな?」
「この格好、何…?」
大きな優勝カップの中に、リボンで簀巻きにされて熾苑は言った。
「景品は黙ってなさいね」
あっさりと言い返す誠一郎。
「むー…」
「しかし……」
誠一郎は、すでに始まった大会を見る。
その特設ステージで戦っている生徒の中にある、星哉の姿を確認する。
「ふふ、まさか彼が…ね。しかも学長の養子、とは…これだから人生は面白い。
そうは思いませんか? 会長」
「ああ、面白いな」
生徒会搭の地下、暗闇の中照らされるモニターを見て、一条織華(いちじょう・おりか)生徒会長は言う。
そこには、生徒会最強四大幹部の姿も在った。すなわち、
副会長・二葉丈威(ふたば・じょうい)、
書記長・三ノ宮緋那緒(つんのみや・ひなお)、
会計統括・四ツ谷顕市(よつや・けんいち)、
庶務統括・五十嵐柾登(いがらし・まさと)である。
「どうです会長? 今回の趣向は」
そこにいたもうひとりの男、勇者部部長である神楽が言った。
「例の「適格者」であろう生徒の目星はすでについており、それらが大会に参加している事も弥生ちゃんの報告から確認済み。
ま、「彼」もそうだとするならば四人、ですがね。
すでにソウルギアおよびソウルマシンの手配も完了しています。
貴女の計画は、全て順調に進んでおりますよ」
そうして、別のモニターを見る。
そこには、達真、章悟、忍の姿が映し出されていた。
「後は、リークした情報をもとに侵入している仔猫と仔兔をひきずり出せば…」
悪役が似合う笑顔で笑う。そして、モニターにまたひとつ映像が浮かんだ。
「その時は、彼らのお披露目となるでしょう」
それは、ドリルのついた銀色の戦車、漆黒のヘリコプター、蒼いクルーザーであった。
「…」
ふと、柾登が周囲を見回す。
「なあ、王岬の奴は?」
王岬、それは風紀委員長王岬瞬である。
「知らん」
二葉があっさり返すが、神楽がその問いに答える。
「ああ、彼なら久しぶりに旧友に会いに言ったのでは?」
「旧友…?」
「ええ。「あの事件」の被害者…とでも言っておきますか。我々に、ひどく恨みを持っている」
いつもの軽薄なノリではなく、ひどく落ち着いた声で神楽は言った。
「過去の過ち…か…」
織華もそうつぶやき、そしてモニターに再び目をやった。
その頃、会場では異変が起こっていた。
それは、
「この会場は、我々悪の秘密結社同好会が乗っ取ったぁ! にゃ」
という、可愛らしくも恐ろしい言葉と共に始まった。
「ふっふっふ、前はあっさり負けちゃったけど、今回はがんばって汚名挽回だにゃ!」
「その意気ですわ先輩☆
あ、ちなみにどうでもいいことですが、
汚名は返上であって挽回じゃないですわよ☆」
悪の秘密結社同好会怪人、シザーキャットとブラッドバニーであった。
足元には彼女らの足元にはすでに何人かが倒されている。
「ああっジョニー!」「マジかよおい…」
参加者たちが口々に言い合う。みな、あまりの出来事に立ちすくみ、腰が引けていた。
たった4人を除いて。
「なんだあいつら…!」
「あれが、悪の秘密結社同好会…? どうする章悟くん!」
「決まってんだろが! 力づくで…」
「でもこないだ、あのネコミミの女の子に手も足も…」
「う゛っ! そ、それは…」
控え室でその光景を章悟たちは見ていた。
「…、くそ。おいお前ら!」
章悟は、控え室の生徒達に言う。
「?」「なんだよ…」
「あいつら、ステージの上しか見てねえ。俺たちが一斉に出れば…」
だが、
「な…」「やだよ、あいつら相手にできっかっての!」
という腰の引けた返答ばかりだった。
「…なっ! てめェら本気かよ!? この大会に出たのはあいつらと戦うためじゃねぇのか!?」
「だってよ…」
「〜〜っ! もういい、てめぇらに期待したオレが馬鹿だった!」
章悟が切れる。だがその時、
「ああ、確かに馬鹿だな」
と声がした。
「ンなにぃぃぃいいいっ!?」
「だがそれでいい。馬鹿でなければ、勇者はつとまらない」
声の主は達真だった。
「なんだテメーっ!」
「君は…?」
章悟と忍が言う。
「風紀委員会、旋夜達真。お前達と同じく、勇者部となるために参加したものだ。そして…弥生さん」
「はい☆」
人垣の中から弥生が大きな鞄を持って来る。
「あんた、受付の…」
「勇者部オペレーターの五十六弥生です。以後よろしくお願いしますね」
「以後…?」
「奴らと戦う事になっても戦意喪失しないお前らが、選ばれたという事だ」
達真は言った。
「…僕と同じくな。お前らふたりとも、勇者ということだ」
「ふふふふふ、あのふたり張り切っておるではないか!」
ステージを見下ろせるビルに立ち、ヤタガミは笑った。
「もしもの時のために奴に頼んだが…もっとも、この調子ではそれもいらんかもしれんな。
そうは思わないか? なぁ……」
ヤタガミは後ろを振り返った。
「王岬瞬よ!」
そこに立っていた王岬が、ヤタガミを見据える。
「来ると思っていた。
そのために、あえて素顔をさらしていたのだからな…!」
「…兇介…っ!」
「ドリルクラックゲイザーっ!」
床板を砕き、回転を加えた衝撃波がシザーキャットに襲い掛かる。
「にゃっ!」
地を蹴り、寸でで回避する。だが、
「チェインクォースっ!」
「ふぎゃっ!」
飛来した「錨(いかり)」が、シザーキャットを横殴りに倒す。
どんっ!
「先輩っ!」
尻をしたたかに打ち、目尻に涙を浮かべるシザーキャットにブラッドバニーが駆け寄る。
カカカカカっ!
だが、彼女の影にに苦無(くない)が打ち付けられ、途端に体が動かなくなる。
「シャドウギアス…その苦無を抜かない限り、動けません」
悪の秘密結社同好会怪人コンビと戦っていたのは、達真たちだった…いや。
「悪いが、勇者部にはエンジェルフェザーだけではないのですよ」
銀に輝く鎧の騎士、スパイラルシルバー。
「すげぇぜこの服…力が内から湧き出る泉のようだ!」
水兵に酷似したセーラー服の戦士、ファングマリナー。
「でもいいのかな…僕達で」
漆黒の忍者、ムーンシャドウ。
それが、ソウルギアに導かれ「勇者」となった、三人の姿だった。
「かまわない。少なくとも、ソウルギアは誰でも操れるものではないからな…最低でも、あそこで震えている下衆どもよりはまだお前たちの方が数億倍マシ、ということだ。
そして…」
ドリル状に螺旋の入ったランスを倒れている二人に突きつける。
「敵とはいえ、これ以上女性を傷つけるのは忍びない。大人しく、投降してください」
「く…っ」
ビッ、ぎぢっ。
「硬結びだな…少し待て、すぐ切れる」
星哉はどうしたかというと、とっとと控え室から逃げ、景品台へと上がり熾苑を簀巻きにしているリボンを切っていた。
「星哉くん!」
「すまんな。ん? そういえば誠一郎はどうした?」
「逃げたよ…」
「そっか」
あの男ならありえる、星哉はそう思いそれ以上は聞かなかった。
「とにかく…ここは「あいつら」に任せて、早く引き上げよう」
「う、うん…」
その時。
声が響いた。
『…不甲斐ない!』
「――!?」
熾苑の背筋を、えもいわれぬ悪寒が走った。
会場中に響く、地の底から聞こえてくるような声。
『不甲斐ないなうぬらは…これでは彼奴が我に助を請うたのもまた頷けるものよ…ならば!』
「この声は…!」
シザーキヤットが上を見上げる。
「なんだあいつはっ!?」
「新手…っ!?」
そこには、
空中に浮かぶ、黒衣仮面の男が在った。
『うぬらに問う…』
(なんだあれ…いやな予感がする…)
熾苑は、その男を見る。
黒いマントを大きく風にはためかせ、それは悠然と彼らを見下ろす。
「悪の秘密結社同好会…闇刻神アーリマン…」
そう言ったのは誰であったか。
アーリマンは、低い雷鳴のような声で言った。
『――力が、欲しいか?』
…と。
続く
次回予告
力が欲しかった。それに彼は答えた。そして力を手に入れた。
ついに隠された力を見せる悪の秘密結社同好会のソウルギア!
その圧倒的な力の前に天使が地に落ちる時、
叫びを聞いて新たなる勇者が誕生する! その銀の刃の輝きを君は見る!
次回、勇者学園エルシオン第三話。
「聖剣の勇者」に・・・君も、ユナイト!
2006年07月06日(木) 21:18:38 Modified by sss9991