福岡を拠点とした表現活動全般にわたるコミュニティーです。



 18世紀の音楽史(主に鍵盤音楽)に関して書いてみます。(第1回)


 変な???作品を発見しました。メキシコの19世紀のピアノの為のソナタ2作品です。いわゆるスカルラッティ風の形式で書かれており、私が大耳でしばしば演奏しているようなスペイン風(メキシコですが、スペインの植民地でしたので)の作品です。スカルラッティの作品と比較すると、もっと後の時代ですので、低音部分の伴奏型や、主旋律が、古典派で用いられているような語彙で書かれています。ちなみに、1曲目のソナタの第1楽章の和音はすっきりした形で終わっていませんよね。つまり、主和音(イ短調ならラドミ)ではなく、代わりに下属和音(イ短調ではレファラ)に続いて属和音(イ短調ならミ・#ソ・シ)で終止しています。この手法はバロック音楽の協奏曲などの緩徐楽章(緩やかなテンポの楽章)にしばしば認められるもので、フリギア終止と呼ばれるものです。フォルテピアノ(古楽器のピアノ)による演奏です。興味がある方は是非どうぞ。それにしてもYou Tube恐るべしです。「世界音楽実演百科事典」なるものが出来そうな勢いです。



 それでは、他所では聞けない?音楽史の話を始めましょう。

 ポルトガルの作曲家Antonio Avondano(1714-1782)のソナタ集です。恐らく世界中探しても今のところは彼女の録音でしか聴けないと思います(私はたまたま以前に東京で彼女のCDを購入することが出来ました)。恐らく、写本のまま残されていて、楽譜も出版されていないのではないでしょうか。
 幸いな事に、You Tube でもそのなかの1曲を聴くことが出来ます。

 ソナタニ長調
 第一楽章
 第二楽章
 第三楽章

 この頃のポルトガルの作品は、お隣のスペイン(ソレール等の作品)とは対照的に、イタリア音楽の影響を非常に強く受けています。しかしながら、所々にポルトガル(またはイベリア半島)特有の作風も現れます。従って、スペインの作曲家ほどではありませんが、モーツァルト等のソナタのイメージで聴いていると意表を突かれ、奇異に感じられるかもしれません。
 上述のソナタでは、第一楽章は概してイタリア趣味に彩られていますが、顕著にポルトガル風の特徴が出ている箇所(4:08〜4:20の大胆な転調部分)があります。第二楽章は全体を通して、イタリア風の、バロック的な協奏曲の様式で書かれていますが、0:44〜0:53、1:31〜2:06あたりはポルトガル的な特徴がみてとれます。第三楽章はイタリア風或いはポルトガル風のどちらとも解釈し得るのですが、少なくとも言えることは、全般的にイタリア趣味が土台となっています。1:18〜1:31、1:57〜2:09の部分は、一部ポルトガル的とも言えるかも知れません。


 めったに耳にする機会もないでしょうから、ポルトガルの作曲家、カルロス・セイシャス(1704 - 1742)の作品を挙げておきます。(You Tubeには意外と沢山の映像がありました。)

 ソナタ ト短調
 この映像は当時の写本や楽器、収録場面等が映っていて大変興味深いです。
奏者のRui Paivaはポルトガルの音楽学者で、使用されているチェンバロは、ポルトガルで18世紀にジョアキム・ジョセ・アントゥネスによって製作された、現存する貴重な楽器だと思います。この楽器は一段鍵盤ですが、一般的に、ポルトガル、スペイン、イタリア製のチェンバロは一段しか鍵盤がありません。よく演奏会でみかける二段鍵盤のものは、フランスまたはフランドル製のものです。ドイツ製も二段鍵盤が主流ですが、中には三段も鍵盤を備えているものもあります。

 フーガ イ短調
大バッハのフーガのようには厳格ではありません。

 ソナタ ト長調
 個人的には、セイシャスの作品は、オルガンで演奏した方がよりしっくり来るものが多いような気がします。この当時の作品は、基本的に楽器の明確な指定はないものが多いです。したがって、オルガン、チェンバロ、クラヴィコード、場合によってはフォルテピアノ等で演奏されます。

 上と同じ演奏者のチェンバロによる演奏  ソナタ ト長調

 スピネット(小型のチェンバロ)による演奏  ソナタ ニ短調(ここではハ短調に移調)

 日本人の演奏(珍しい)も紹介しておきます。  ソナタ ニ短調

 モダンピアノでの演奏  トッカータ ホ短調

 チェンバロ協奏曲より第一楽章



 一般に、『前古典派』と呼ばれている時代(時期的には、バロックと古典派の間、すなわち大局的には18世紀中頃辺りと考えればよいでしょう。)は、音楽学上、最も研究が遅れている分野です。未だに多くの作品が図書館で眠り続けているというのが現状です。
 この頃は、バロック時代と古典派という非常に対極的な時代の変遷期に当たりますので、混沌としていて、国により、或いはまた、作曲家により様式や作風が異なっています。時には、同一の作曲家の作品ですら、全く違った様式や形式で書かれていることもあります。
 バロックから古典派への変遷に関しては、次の文章がそれを的確に表現しているように思われます。
 「単純なもの、感情的なもの、自然なものを求める新しい傾向は1730年頃に生じ、1780年頃に早くも古典派の頂点へと導いた。」(カラー図解音楽事典267頁)
 正しくこの1780年頃にかけての古典派の前段階にあたる時期が前古典派に該当します。


 バロックと古典派の音楽は、その作品を聴き較べてみれば、容易に違いを認識できることでしょう。
 例えば、ホモフォニーとポリフォニーの違いです。古典派以降の音楽では、ホモフォニーが曲を構成要素として確固たるものとなっています。


 ホモフォニーとは、今日、我々が日常的に接しているような音楽一般と言えます。即ち、主声部の旋律に対し、簡単な伴奏を付したようなものを指します。より具体的に判り易く説明するならば、歌手が一人で旋律を歌い、他の器楽奏者が単純なコード(和音)の伴奏を弾くような作法です。
 上述したAvondanoのソナタの第一楽章もその典型例です。

 ピアノなどの鍵盤楽器では、右手でメロディーを、左手で和音や分散和音を奏するのが一般的です。分散和音とは、ドミソの和音を例にとると、これらの三音を同時に鳴らすのではなく、ド→ミ→ソ、或いはド→ソ→ミ→ソといった順に時間的にずらして、分散させて弾かれる和音の一種です。特に、古典派の鍵盤音楽では後者のように分散された伴奏型は常套句として用いられています。この伴奏型は、アルベルティという作曲家にちなんで『アルベルティ・バス』と称されています。(ちなみに、このアルベルティというイタリアの作曲家、幸いにもこのようなかたちでその名を音楽史に留めていますが、どうみても彼は素人作曲家の域を出ていません。)

 例としてモーツァルトのピアノソナタを紹介しておきます。
 演奏1. 
 〔これは当時のピアノです(通称:フォルテピアノ)。今日の楽器とはかなり異なる音色ですよ。実際、その構造も違っています(鍵盤とハンマーを接続している部分が離れる際に、シングルエスケープメントを採用。モダンピアノはダブルエスケープメントです。)。譜面が映し出されてますので、作風を理解する参考にでもして下さい。〕

 ついでにもう一曲。これは連弾用のソナタです。
 演奏2. 
 〔ここではチェンバロとフォルテピアノが一体となった楽器を演奏に用いているようです。この楽器のピアノの部分(少し籠ったようなハープに近い音色)の音質はまだチェンバロに近く金属音がしています。この曲が終わる直前の僅か7秒間ほどは、はっきりとこのピアノの部分の音が認識できます。日本で唯一の公立の、静岡県にある浜松市楽器博物館には、クリストフォリのピアノのレプリカが置いてありますが、その楽器の音色はこんな感じです。ちなみに、1700年頃にピアノを発明したクリストフォリは、彼の楽器に『ピアノとフォルテが出せるチェンバロ』と命名しましたが、この新たなる楽器は、後世ではピアノフォルテ、略してピアノという名で呼ばれるようになりました。〕


 このような古典派の音楽とは対照的に、バロック音楽は、ポリフォニー(多声音楽)が重要な役割を果たしています。ポリフォニーとは、各声部が独立した対位法的な動きをし、それらが曲を構成するような作法です。バロック期に頻繁に作曲されていた、『フーガ』が代表的な例として挙げられます。フーガ形式は、主題が統一されており、幾度となく主題が現れますので、まだ理解し易いかも知れませんが、とにかく各声部が別々に動きます。〔大バッハの主題は、抽象的で難解なものが結構あります(下の例1.)。〕

 端的には、聴いていても何だかごちゃごちゃしていて把握しづらい複雑な音楽とでも言えばよろしいかも知れません。とりあえず、あっちやら、こっちやらが別々の方向とリズムで動いているような音楽とでも言っておきましょう。まともに聴くのには集中力と労力を要します。

 例としてヨハン・セバスティアン・バッハ(大バッハ)のフーガを二曲挙げておきます。
 演奏1. 

 オルガンの方が声部の動きが分かりやすいと思います。視覚的には、足のペダルと、ちょっと判り辛いですが、右手、左手のそれぞれの動きに注目してください。
 演奏2. 

 ポリフォニーの極端な例を示しましたが、勿論、実際には、各声部(横の線)が独立しているとはいえ、縦の線(和声)を無視しているわけではありません。所々ではぶつかり合って不協和音程が生じてはいますが、さほど耳には付かないでしょう。もしそうでなければ、不協和音で楽曲が満たされてしまうはずです。

 バロック音楽では、フーガのような対位法的手法(ある声部が止まっていると他の声部が動いたり、或いは上昇すると対立する声部が下降するといった手法)を駆使するような形式を除いては、後の古典派ほどではないにしても、和声はちゃんと考慮されています。
 唯、この時代に独特なのは、低音の伴奏部分が必ずしも明確には書かれていないという事があります。いわゆる通奏低音(Basso Continuo)というものですが、これは低音部分だけが記譜されていて、その下に数字が書き加えられています(数字付き低音)。この数字は低音からの音程を表しており、例えば、低音がソで、数字が4と6と記されているとすると、4度と6度上の音、即ちドとミも一緒に弾かなければならない事を意味しています。
 鍵盤楽器の場合は、更に右手にあたる部分も奏者の判断で付け加えなければなりませんが、どのようにするかに関しては、演奏者に全面的に委ねられていますので、こういった点では、バロックは自由度や即興性が高い音楽と言ってもよいでしょう。
 実際に、旋律を奏でるヴァイオリンなどの楽器のパートは、きちんと楽譜に書き記されていますが、一般的には必ずしも譜面通りに弾かなければならないという制約はありません。当時の演奏習慣では、適宜、他の音を付け足して旋律の装飾を行っても良かったのです。(私個人としては、恐らく、大バッハはこの自由度が許せなかったのか、或いはよほど几帳面だったので、細かい装飾音を自分の作品にわざわざ書き込んでいるのではないかと考えます。)


 加えて、協奏原理もバロック音楽の主要な特色をなしています。

 協奏原理は、何も協奏曲というジャンルに限定されて用いられていたわけではありませんが、取り敢えず、コレルリの合奏協奏曲集より『クリスマス協奏曲』(全曲)を例示しておきます。
 協奏曲といえば、通常、独奏協奏曲のことを今日では指しますが、バロック時代には合奏協奏曲という協奏曲のジャンルがありました。後の古典派以降は、独奏協奏曲に収斂されていきました。

 コレルリの合奏協奏曲集より『クリスマス協奏曲』(全曲) Part1 Part2 Part3 Part4

 ピエトロ・ロカテルリ作曲(1695-1764):合奏協奏曲ニ長調
 ピエトロ・ロカテルリ作曲(1695-1764):Introduzone 作品4-4
 手元に資料がないのでよく分かりませんが、Introduzoneというタイトルになっていますが合奏協奏曲の一種でしょう。


 バロック期の独奏協奏曲も一応挙げておきましょう。
アレッサンドロ・マルチェルロ作曲:オーボエ協奏曲ニ短調(全曲)(この曲は比較的有名です)
第一楽章:
第二楽章:
第三楽章:

 ピエトロ・ロカテルリ作曲(1695-1764):『ヴァイオリンの技法』 作品3より第11番?
 Part1  Part2
 映像がなくて面白くないですが、この作品3の曲集は、正にその名の通りヴァイオリンの超絶技巧を駆使しています。この曲集では『カプリッチョ』というヴァイオリン独奏のための楽章が各曲に2つずつ設けられているのですが、この楽章では、導入部及び終結部以外は殆ど協奏していませんが、この部分は本当に凄いです(Part1 1:10〜3:14, 4:09〜6:45 / Part2 7:59〜10:33)。

 ついでに古典派の独奏協奏曲の例として、モーツァルトのピアノ協奏曲第20番ニ短調(全曲)も付け加えておきます。
 第一楽章:Part1  Part2
 第二楽章  第三楽章
 この演奏では、フォルテピアノが使われています。私は個人的には、この時代の作品にはモダンピアノではなく、古楽器のピアノによる演奏が似合っていると思います。それにしても、この楽曲は特に有名ですが、彼のピアノ協奏曲は全般的に優美で繊細です。
 バロックの同じジャンルの曲と比較すると、古典派の作品の方が、オーケストラと独奏楽器(ここではピアノ)との対比がより明確になっていることが判ると思います。

 独奏協奏曲は、独奏楽器とオーケストラが絶えず対比され掛け合いながらコントラストを織り成し曲が進行していきます。他方、合奏協奏曲では、独奏楽器群(コンチェルティーノ)とオーケストラ全体(トゥッティ、総奏)が対比されています。

 その他、バロック期の特色として情緒説及び音象徴法といったものも挙げられます。
 (以下、その2に続きます。2月6日)


 COPYRIGHT: Feb 06, 2009 T.Todoroki

⇒『18世紀の音楽史(主に鍵盤音楽)に関して書いてみます』(第2回)へ

⇒『18世紀の音楽史(主に鍵盤音楽)に関して書いてみます』目次へ
  • twitter
  • livedoor クリップ
  • はてなブックマーク
  • delicious
  • Yahoo! ブックマーク
  • niftyブックマーク
  • Buzzurl

Wiki内検索

Menu

皆様、明けましておめでとうございます。
本年ももよろしくお願いします。

ところで私は、今日4日からasi-paraで写真展をやります。
主にミュージシャンやダンサー、パフォーマーの人達を
題材にした写真展です、ぜひご来場下さい。

日時/1月4日〜31日・12:00〜20:00
(店休日10日・24日)
場所/アートエリアasi-para
福岡市中央区今泉2-4-39拓栄ビル2F  
090-2587-4076
http://www.asi-para.com/

Wikiをはじめる

マイページ