吉村美代子の再会
吉村美代子の再会
吉村美代子の再会
プロローグ
学校ではハルヒに振り回されている俺だが、帰宅してから夕食までの時間はありがたい自由時間だ。
制服からラフな部屋着に着替え、ベットの上で時間を潰す。
何物にも変えられない俺の自由時間。
一学期の期末試験を終えた我が北高は、特別時間割となって授業は午前中で終わり…なのだがSOS団の活動に休みは無く、むしろ団活の時間が増えてそれに比例して俺の疲労も増えた。
古泉が夏休みに絶海の孤島へ合宿に行こうなどとぬかしたせいで、ハルヒはご機嫌になり今はその企画を古泉と共に進めているところだ。
先週には喜緑江美里さんと名乗る上級生から、依頼を受けて謎のカマドウマ退治をさせられた。
長門の話によればハルヒの作ったSOS団のエンブレムに、何らかの力が働き引き起こした騒動らしい。
被害に遭ったコンピ研部長には、何と言うか申し訳ない。
今回の敵?は情報生命体とか言う奴で、長門の本体の遠い親戚だったらしい。
古泉によると大変な偶然らしい。
天文学的数字になる確率を引き起こしたとかなんとか…
俺はと言うと正直、「知ったこっちゃねえや」な心境だ。
あいつがどんな面倒を起こそうと、その後始末をするのは俺たちなのだ。
勘弁してくれ。
第一章
その時、リビングのほうから電話のコールが聞こえた。
母か妹が出ると思ったが、一向に誰も出る気配が無い。
仕方なく、部屋から出てリビングの様子を伺った。
母は、夕飯の支度で手が離せないようだ。
妹の姿は見当たらない。
そう言えばさっき妹が俺の部屋に来て、「お風呂先に入るね」と言って去っていったのを思い出した。
つまり、妹は今頃風呂に入っている。
こうなれば必然的に電話に出れるのは俺だけになる。
もしもし?
「………」
あの、もしもし?
「あっ、はい。今晩は…」
電話の向こうから聞こえてきたのは、大人びた声だった。
しかし朝比奈さん(大)とはまた違う。
まるで声は大人びているが、実年齢とは違う。
そんな感じだ。
ん?
そんな子に俺は心当たりあるぞ。
ミヨキチ?…ミヨキチか?
「あっはい、そうです。今はお忙しいですか?」
妹と同学年であり親友で、この敬語が入る喋り方。
ミヨキチこと吉村美代子。
いや、普通に暇だが…
「そっそうですか、良かった」
そう言えばミヨキチが俺に電話をくれるなんて珍しいな、前にしてきたのは春休みだっけ?
「覚えてくれていたんですか?恐縮です」
俺相手に「恐縮です」などと使ってくると変な感じだが、小学生にしてミヨキチはそう言う子なのだ。
そんな、かしこまらなくても良いぞ。俺はそう言うことを気にする人間じゃないから…
「いえ、でも…」
そんなことより、俺に何か用があるのか?
「あっ、そうでした。お兄さんは週末は暇ですか?」
今週の週末ね…
脳内スケジュールをめくって見ると、週末どころか今日以降も何も予定は入っていない。
別に予定は入ってないぞ、後から入る可能性はあるが…
後から入る可能性とはハルヒの突発的活動のことである。
もっともハルヒは、夏休みのSOS団孤島合宿の打ち合わせを古泉とやっているので可能性は著しく低い。
「そうですか…。それじゃあ先着で私が入れてもいいですか?」
ああ、かまわん。可能性は低いからな。
そう言うと電話の向こうから一呼吸聞こえた。
「えと、それじゃ用件を言います。週末に私と会ってください」
えっ、会う?
「いけませんか?」
いやかまわないが会うくらいなら妹を通して言えば良いし、電話なんかいらないんじゃないか?
「すいません、私の気持ちの問題です…」
そうか、それなら良いんだ。
「いつ、どこでにしますか?」
北口駅に朝10時で良いか?
「はい、大丈夫です」
そうか、それじゃそういうことで…
俺は電話を切ろうとした。
「あの、ちょっと待って下さい」
ん?何だ?
「妹さんには内緒にして下さい」
なんでだ?ケンカでもしたのか?
「とにかく内緒にして下さい、それで妹さんを通さずに電話にしたんです」
なるほど、電話でかけてきたのはそれが原因だったのか…
しかし、理由が気になるな。
だがミヨキチの口ぶりからすると、触れて欲しくないことなのが分かったので詮索はしないことにした。
分かった。
「それじゃあ、お休みなさい」
おう、お休み。
向こうが電話を切ったのを確認してから、通話ボタンを押して俺も切った。
子機を戻しにリビングに行くと風呂上りの妹に会った。
妹は熱気をもわもわ出しながら俺に話しかけてきた。
「キョン君、子機なんか持ってどうしたの?」
谷口から電話があったんだ。週末にゲーセン行かないかって…
ミヨキチに言われたとおり、嘘をついた。
「ふぅ〜ん」
妹は出来るだけ無表情を保っている俺の顔をマジマジと見てくる。
「キョン君、一つ聞いて?」
おう。
「ミヨキチから電話があったら、絶対に私に言ってね」
何でだよ、そもそも来る可能性なんか無いだろ。
「女の勘で来そうなの…」
女の勘ってお前まだ小5だろ。
「来そうったら来そうなの、じゃっキョン君お風呂開いたよ〜」
そう告げて妹は去っていった。
第二章
今日は日曜日。
心配してたハルヒからの緊急の呼び出しは今のところ無い。
ひどい時はお昼過ぎまで惰眠を貪っているのだが、ミヨキチとの10時の約束に合わせて8時に起きた。
寝間着を着替えて部屋を出ると寝ぼけ眼の妹に会った。
「アレー、キョン君お出掛けぇ〜?」
ああ、谷口と行ってくる。
「行ってらっしゃ〜い」
どうやら谷口とゲーセンに行ってくる、という嘘を信じ込んでいるようである。
リビングで軽い朝食を摂ると少し早めに家を出た。
北口駅前午前9時40分。
俺にしては珍しく、20分前に着いた。
自転車を駅前の駐輪場に料金を払って止めると、ミヨキチの姿を探す。
これがSOS団の不思議探しなら良いのだが、今日は違う。
遅刻しても喫茶店の飲食代を払わされないので、少し損した気分だ。
駅前は人がごった返しており、SOS団の時と違い探している人間は一人なので大変だ。
今、思うと光陽園駅にすれば良かったと後悔。
地元のあの駅ならこれほどの人はいないので楽なのだ。
ただ、周りには住宅街のほかには商店が数件ほどしか無いので、にぎやかなこちら側に当然出てくることになる。
結局、どっちもどっち一長一短なのだ。
これ以上このことに考えても無駄と判断した俺は、ミヨキチを探すことに集中する。
「お兄さん?」
唐突に後ろから声を掛けられた。
振り向くとそこにはうちの妹と同い年とは思えないほど大人びた(妹が子供びているのかもしれないが…)ミヨキチの笑顔があった。
ミヨキチ…
「おはようございます。待ちましたか?」
いや、今来たところだ。それよりミヨキチの方が待ったんじゃないか?
「大丈夫です。待ったとしても私が誘ったので…」
…そうか。で、今日はどうすればいいんだ?
俺は今日、彼女からは「会ってほしい」と言うこと意外何も聞いていない。
さすがに当日になれば彼女の方から話してくれると思ったのだ。
「特に今回は何も決めてません。お兄さんが決めてください。私はそれに付いて行きます」
それで良いのか?
「はい、なんとなく会いたくなったんです。妹さん抜きで…」
妹とケンカでもしたのか?
「してませんよ。至って妹さんとの仲は良好です」
なら良かった。じゃあ行こうか…
正直、頭の中は真っ白だったがここにずっといても何も始まらない。
「はい」
ミヨキチも同意し繁華街の方へ歩き始めた。
「キョン君、やっぱり嘘付いてた…」
街路樹の陰からキョンの妹がつぶやく。
「キョンに女がいたとは迂闊だったわ。妹さんから聞いてこっち来て良かったわ」
妹の隣でキョンとハルヒが言う。
「でしょ。おかしいと思ったんです。谷口さんから電話が来るとしたら携帯に掛けてくるはず、家の電話に掛けてくることなんかありえません」
神妙な顔つきでハルヒに言う。
「ありえないってことはないけど、可能性が低かったことは確かね」
少女はことを冷静に見ながら、妹をほめる。
「へへへっ」
「さて、後についていくわよ」
「ラジャー!」
妹は元気に返事をしてハルヒについていった。
第三章
歩き出してしばらくすると携帯に電話がかかってきた。
すまん。ちょっと電話だ。ここで待ってて…
普通の電話なら彼女の前で話しても構わないんだが、相手が古泉だった。
ハルヒのことだろうから話が長くなる可能性がある、
仕方が無いので彼女と一度、離れる。
「はい」
ミヨキチも幸い、快諾してくれた。
「出来るだけ早く戻ってきてくださいね」
と残して…
ミヨキチと別れ脇道に入ったところで電話に出る。
古泉、何か用か?
「用件は一つだけです。貴方、涼宮さんに会いませんでしたか?」
いや、会ってないが…それがどうしたんだ?
「今日、朝の10時に例の喫茶店で夏休みの合宿の段取りについて最終確認をする約束をしたんですが、まだいらしてないんです」
それで何で俺に連絡するんだ?
「いえ、ただ単に貴方のところじゃないかと思いまして…」
何で俺のところなんだよ。
「それが自然だからですよ」
お前の言ってることがさっぱり理解出来ん。
「まあ、現状では貴方に理解は出来ないことでしょう」
現状ではってどういうことだ?
「僕としては貴方に気づいて欲しいのです。ただ、今のところその兆しが見えないので…」
これ以上分からんことを言うなら電話を切るぞ。
「今、忙しいのですか?」
ああ、人を待たせてる。出来れば少しでも早く開放して欲しいんだが…
スピーカーの向こうから古泉がフフフッと小さく笑う声が聞こえる。
気色悪い野郎だ。
「そうでしたか。でしたら仕方がありません。他を当たってみます」
ああ、そうしてくれ。
電話を切った。
そして待たせているミヨキチの元へと急いだ。
「誰と電話してるんでしょう?」
妹は兄の行動を街路樹の陰から少し身を乗り出しながら見ていた。
そして隣にいるハルヒに聞く。
「多分、古泉君でしょう。私の携帯に何度もかかってきてる」
「なんであなたへ電話がかかって来るとキョン君に連絡が行くと思うんですか?」
「女の勘よ」
「ふぅ〜ん…」
妹は疑いの眼差しでハルヒを見る。
「何よ」
「いえ、何でも…」
妹とハルヒはさらにキョンの監視を続ける。
第四章
「お兄さん、私たち誰かに見られてませんか?」
古泉との電話越しの会話を終え、ミヨキチと合流すると唐突に彼女が言った。
へっ?俺は今まで何も感じなかったが…
「私はお兄さんと朝、あった時から感じるんです」
そんな前から?
「はい」
言われて周りを見回す。
特に怪しい者は付近には見当たらないが…
「私の気のせいでしょうか?」
多分そうだろ。
「そうだと良いんですが…」
ミヨキチは曇りがちな表情を浮かべる。
そう言えばまだこれからどこに行くか決めてないんだが…
「お兄さんはどこか行きたい所無いんですか?」
って言われても無いんだよな…
「弱りましたねぇ…」
すまん、休日は家でゴロゴロしてることが常だから思いつかない…
ミヨキチは少し考える仕草をしてすぐに目を大きく見開く。
「今、私に行きたい所が出来ました!ホントはお兄さんの好きな場所へついて行きたかったんですが、私の行きたいところに付き合ってくれますか?」
ああ、そう言うことなら構わん。付き合うよ。
こうしてミヨキチに言われるがまま、俺は繁華街の奥へついて行った。
「ミヨキチ、何考えてんだろ。キョン君をどこへ連れてく気なの?」
妹が珍しく小さくミヨキチに怒りの感情を露わにする。
「妹ちゃん、落ち着いて。何もキョンを怪しい場所に連れてこうって決まった訳じゃないんだから」
隣にいるハルヒが妹をなだめる。
言葉の上では冷静さを装っているが、ハルヒのこめかみはうっすらピクピクしている。
それを見て妹がケラケラ笑う。
「何がおかしいのよ!」
と妹に語気を荒げてハルヒが言う。
「だって私はどこに連れてくの?って言っただけです。怪しい場所なんて一言も…」
「そっそれは………。言葉のアヤよ、アヤっ」
「でも、ミヨキチって大人っぽい子だからちょっと心配なのも確かです」
「ふ〜ん…。そうなんだ」
女性は少し余裕がある態度で答える。
「自信満々ですね?」
「少なくとも大人っぽいだけなのよね?あたしはもう大人なんだから…」
「その言い方、まるで私が子供みたいな…」
女性はわざとらしくあさっての方向を向いて口笛なんか吹きだした。
「その対応、子供っぽい」
妹はジトーっとした目で女性を見るがやがて諦めて観察を再開し始めた。
実を言うと俺もミヨキチの行きたいと言う場所には興味があった。
前回は映画館と喫茶店。
今回はどこへ?
第五章
なるほどね。
確かにミヨキチみたいな子には入りにくそうだが………。
そこは全国展開しているアニメショップ。
マンガやアニメグッズ、CDやDVDが売っているらしいが…
これは大人だから入れるってもんじゃないと思うぞ。
俺も行ったことないし、確かに入るのを躊躇いたくもなる。
入ったらあっちの世界に行っちゃいそうな気がして…
いやいや、今現にここに入っていく人はみんな突破した場所なんだぞ。
俺にだって行けるはずだ。
隣のミヨキチの様子を伺うと顔が青ざめている。
なっなあ。ミヨキチ?
「なっなんでしょう?」
なんでここに入りたいんだ?
「かっ風邪を引いた友達がどうしても欲しいマンガがあって、頼まれてたのを思い出したんです」
普通の書店で置いてないのか?
「置いてないマンガなんだそうです」
う〜ん、困った。
「何を入るの躊躇ってるのよ」
その時後ろからハルヒの声がした。
ハルヒ、ここに入ったことあるのか?
「常連よ、」
意外だ。
あのハルヒがこう言う店の常連だったなんて…
「良いじゃない、誰が何に興味を持とうと…」
「みくるちゃんを入団させる時に言ったじゃない、萌えは重要な要素って」
そう言えばそんなことを言ってたな。
「さっさと入っちゃいなさいよ」
そうは言っても心の準備が…
「ぐだぐだ言ってないで、ほらっ!」
ハルヒに胸倉を掴まれてめでたくご入店させられた。
ミヨキチも意を決して入る。
中は異様な空気に包まれていた。
基本的には本や雑誌が置かれているが、壁面にはポスターなどが沢山見受けられる。
そして店内にいる人間はそれっぽさが漂う人と普通な感じの人が半々。
意外にも学校帰りに寄っているのか制服姿の学生もいる。
どうやらヲタクだらけというのは俺の一方的な偏見だったみたいだ。
隣ではミヨキチが目を丸くしている。
「意外に普通な人が…」
「何も恐れることは無いわ」
ハルヒは自信満々に言う。
すまん、ハルヒ。ありがとうなと俺も素直に礼を言う。
ハルヒの言う通り躊躇は無用だったのだ。
「なんで礼なんて言うのよ、私は特に何もしてないんだからね、まあ一応言葉は受け取っておくけど…」
「ありがとうございました」
ミヨキチがハルヒに丁寧にお辞儀する。
「あんたも別に謝んなくてもいいのよ」
気のせいか。
ハルヒの顔はほんのり赤く染まっている。
きっと、沢山の人からお礼を言われたことが無かったのだろう。
そう言えばハルヒは何でこんなところにいるんだ?
第六章
そう言やハルヒ、お前はなんでここにいるんだ?
尋ねられたハルヒの表情が固まった。
笑顔のままで。
「えと…キョン?何でそんなこと聞くかな…かな?」
表面上は笑っているが目が笑ってない。
そしてミヨキチも。
「そう言えば私も気になってたんですが…」
古泉がお前を探してたぞ。早く行った方が良いんじゃないか?
ハルヒはわざとらしく目をパッチリ開け
「そ〜言えば古泉君と約束してたんだっけ?忘れてたわ。キョン、教えてくれてありがとう」
おいっ、ハルヒ。質問に答えろっ!
俺の言葉は耳に届かなかったらしく、猛ダッシュしてその場から消えてしまった。
「私がさっきから感じてた視線はもしかして…」
ミヨキチは真剣な顔をして考えていた。
一時俺とミヨキチは立ち尽くしていた。
あいつ行っちゃったよ。
と、となりにいるミヨキチに沈黙を破るために話しかける。
「そう言えば私、自己紹介をしてませんでした」
ミヨキチはキチンと自分のことを知らせたかったらしい。
あいつはな、俺の同級生で涼宮ハルヒっていう奴だ。
と俺からあいつを紹介してみる。
「同じクラスなんですか?」
クラスどころか部活みたいなのも一緒だ。
「部活…みたいなもの…ですか?」
ああ、学校側は正式に認めてない部活だから部活とは言えないんだ。
「どんな活動を?」
正直なところ、俺もよく理解してないんだ。
「ふ〜ん、それじゃ彼女に私のことも紹介しておいて下さい。名乗らないと自分が落ち着かないんで…」
おう。
「目当ての物は揃ったんで最後に一ヶ所。寄ってもいいですか?」
ああ、分かった。
ミヨキチが最後に寄りたいところとはどこなんだろうか?
「ハァハァハァ…」
キョンとミヨキチの視界から消えたところでハルヒは走るのをやめ、妹と合流していた。
ポケットでは携帯がブルブル振動している。
恐らく古泉からの電話だろう。
ハルヒの前では妹が怒っている。
「何むやみに話しかけてるんですか!こっちの行動がばれちゃいますよ。キョン君は鈍いから心配ないけど、ミヨキチは変に鋭いところがあるんだから」
「むぅ〜」
小学生に叱られていること事実が受け入れられないのか、ハルヒの目は横一線になっている。
「聞いてるんですか?」
「妹ちゃん、ごめん。そろそろ古泉君のところに行かないと…」
「あっ逃げる気ですか?」
「それじゃあねっ!」
ハルヒはまだ体力が完全には回復してないはずだが、また猛ダッシュしてその場から去る。
「ひっ卑怯者〜!」
妹の叫ぶ声だけがその場に響いた。
第七章
ミヨキチと一緒に次なる目的地へと歩く。
繁華街から離れ、再び住宅地に戻ってきた。
方向を見る限り、俺の家に向かっているみたいだ。
ところが俺の家を過ぎてもミヨキチはまっすぐ進んでいく。
やがて目の前に土手が現れた。
春に朝比奈さんと歩いたあの川だ。
「ここです」
とミヨキチが目的地に着いたことを告げる。
川幅はたいして広くなく、両側に桜の木が並木を形成している。
最後にここで何するんだ?
「それは…」
「ちょっと待ったぁ〜!」
聞き慣れた声がミヨキチの声を遮るように響く。
声のしたほうを見ると、そこには未だかつて見たことの無い険しい表情をした妹が立っていた。
「キョン君、先に帰ってて」
台詞は優しいが、表情は冷たい。
「言ったよね?ミヨキチから電話がかかって来たら私に伝えてって…」
ミヨキチの表情は固まっている。
二人の間に何かあったのか?
「キョン君、今先に帰ってくれれば伝えなかったことは許してあげる」
たかだか小学5年生の妹だが、有無を言わせないオーラを出している。
みっミヨキチ?
ミヨキチにとりあえず聞いてみる。
「どうやらあなただけは騙せなかったようですね」
ミヨキチは呆れたような表情を作る。
がしかし声は普段より低い。
「キョンさん、先に帰ってもらって結構です」
ミヨキチはそれで良いのか?
「はい、彼女と徹底的に話します。続きは後日と言うことで…」
「また、日を改めてやる気なの?私は許さないから!」
思わず許可を得たので帰ることに決めた。
妹は小学5年生のハズだが、流している空気にはそれらしさを感じさせない。
「お母さんに言っといて…、夕ご飯までには帰るって…」
そして妹の残した台詞の上では、全く緊張感は無かった。
第八章
「さてと…」
妹はキョンへの若干崩した表情(それでも纏っている空気は変わらない)から本気の表情へ戻す。
「どうしてこうなったのかしら?ミヨキチ…」
「別に私はキョンさんと合ってただけですよ」
「どうして会ったの?理由が知りたいんだけど…」
妹は語尾を強く言って、まるで言うことを聞かない男子高校生のような態度だ。
「会いたかった…、それだけじゃダメですか?」
「ちゃんとした理由が会ったハズよ。でなきゃあなたが行動を起こせるはずがない」
「なるほど…、私の性格はお見通しってわけですか」
「何年の付き合いだと思ってんの、ミヨキチと私は…」
「それもそうですね」
「っで、理由は!」
「あなたの思ってる通りですよ。キョンさんと仲良くなろうと思ってました」
「私がいると分かってて?」
「そうです。あなたに内緒でキョンさんに連絡したのもそのためです。でなきゃ絶対にあなたから妨害が来るので」
「キョン君の様子が変だったから疑ってみて正解だった。もし、谷口さんから電話がかかって来るなら家電(家の電話)じゃなくて携帯にかけてくるはずだから」
「やっぱし、キョンさんのガードは堅いか…」
「例えミヨキチ、あなたが私の友達だとしてもキョン君は渡さない!あのハルヒって人にも!」
「あの人も…ですか、予想はしてたんですけどね…」
「今回は協力してもらったけど次回からはライバルとして思う」
「他にキョンさんのお相手には心当たりある?」
「キョン君の一つ先輩の朝比奈さん、同級生の長門さん。先輩の鶴屋さんも怪しいと思ってる」
「さすがあなたね。しっかりチェックしてるのね」
「キョン君は誰にも渡さない。キョン君は私だけのものなんだから…」
「それだけ強く思っているなら私は引く」
ミヨキチがその言葉を発した途端、妹から急速に毒気が抜けて行く。
「さすがミヨキチ。これで元通りね」
普段の彼女に戻るスピードが、あまりにも速かったのでミヨキチは面食らったが、自分を許してくれた妹に感謝し「そうしてくれると嬉しい」と笑顔で言う。
「うん、それじゃまた明日学校でね」
「バイバイ!」
別れの挨拶は、どこから見ても小学生同士のそれだった。
エピローグ
最後に別れた時の妹の様子は限りなく怖く、「もしかしたら夕飯までに帰ってこないほど話が長引くのか?」と思ったが、意外にも妹は早く帰ってきた。
雰囲気、オーラ、機嫌…
どれをとっても普段通りだった。
翌朝、朝食を済ませ妹といつも通り家を出る。
そして家の前にはミヨキチの姿が…
こちらも昨日の夜以前と変わらず、元に戻っていた。
「おはよう!」
「おはよう、ミヨキチ〜!」
と朝の挨拶も普通。
挨拶を済ませたミヨキチがトコトコと俺に寄って来て、「昨日のことは全て忘れて下さい」と言い残して妹と共に俺の前から去っていく。
あれほど仲が悪そうに見えたのだが、一体どうやって仲直りしたのか謎だ。
俺は家の前で1人立ち尽くし上手く晴れた青空を仰ぎ見る。
そしていつも通り1人で寂しく登校し、怠惰な授業を送り、放課後の団活でハルヒから合宿先が絶海の孤島になったことや、その日程を知らされたのだった。
おまけ
妹やキョン、ミヨキチから逃げたハルヒに1本の電話がかかって来る。
「古泉君…」
案の定、相手は古泉。
「良かった…、やっと繋がりました」
「古泉君、ごめんね。いろいろと立て込んでて…」
「全て、報告されてます」
「?」
「おっといけない。今のは気にしないで下さい」
ハルヒには何も分からない。
古泉は機関に頼み、ハルヒを探していたのだ。
その過程で全てを知ったのだ。
「何か気になるわねぇ〜」
「それよりもいつものファミレスに来て下さい。待ってますから…」
古泉は問答無用と言った感じで切る。
「待たせちゃったのはこっちだし、気にしないでおこうかしら?」
ハルヒにしては珍しく詮索をすることをせず、古泉の待つファミレスへ向かうのだった。
あとがき
はい、今回はハルヒキャラでも超マイナーなミヨキチ、本名吉村美代子さんのお話でした。
多少発表ペースが遅れてしまいましたが無事完成、今日更新終了できました。
次回作はハルヒと別作品の同時進行なので更に公開が遅れます、確実に…
作品内容についてですが、いろんなサイトを見てもミヨキチをメインにした作品はまだまだ少ないようです。
まあ、憤慨で登場した人物なのでシリーズを相当読み進めないと知ることが出来ないのですが…
その憤慨の話、「編集長☆一直線!」でのミヨキチの様子を見ているとキョンLOVEでも行けるんじゃないか?と考えたことからこのネタが浮かびました。
それ以降、僕の脳内でミヨキチ=キョンLOVEに変換されていました。
今回の対決で妙にすんなり妹に譲りましたが、この先話に絡ませてみようかな?とかも考えてみたりしてます。
キョンをめぐってミヨキチも奪い合いに参戦!とか…。
ただ、次回の涼宮ハルヒの二次創作シリーズではミヨキチは出る予定はないので、やるとしたら次々作辺りになりますね。
自分次第ですが…
今回は珍しく沢山喋ってますが最後に一つ。
ハルヒにテンプレートなツンデレの台詞を喋らせたのは初めてですね?(おいっ!)
それでは次回作で…
2008 6/21 コンプレッサー狂
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吉村美代子の再会
プロローグ
学校ではハルヒに振り回されている俺だが、帰宅してから夕食までの時間はありがたい自由時間だ。
制服からラフな部屋着に着替え、ベットの上で時間を潰す。
何物にも変えられない俺の自由時間。
一学期の期末試験を終えた我が北高は、特別時間割となって授業は午前中で終わり…なのだがSOS団の活動に休みは無く、むしろ団活の時間が増えてそれに比例して俺の疲労も増えた。
古泉が夏休みに絶海の孤島へ合宿に行こうなどとぬかしたせいで、ハルヒはご機嫌になり今はその企画を古泉と共に進めているところだ。
先週には喜緑江美里さんと名乗る上級生から、依頼を受けて謎のカマドウマ退治をさせられた。
長門の話によればハルヒの作ったSOS団のエンブレムに、何らかの力が働き引き起こした騒動らしい。
被害に遭ったコンピ研部長には、何と言うか申し訳ない。
今回の敵?は情報生命体とか言う奴で、長門の本体の遠い親戚だったらしい。
古泉によると大変な偶然らしい。
天文学的数字になる確率を引き起こしたとかなんとか…
俺はと言うと正直、「知ったこっちゃねえや」な心境だ。
あいつがどんな面倒を起こそうと、その後始末をするのは俺たちなのだ。
勘弁してくれ。
第一章
その時、リビングのほうから電話のコールが聞こえた。
母か妹が出ると思ったが、一向に誰も出る気配が無い。
仕方なく、部屋から出てリビングの様子を伺った。
母は、夕飯の支度で手が離せないようだ。
妹の姿は見当たらない。
そう言えばさっき妹が俺の部屋に来て、「お風呂先に入るね」と言って去っていったのを思い出した。
つまり、妹は今頃風呂に入っている。
こうなれば必然的に電話に出れるのは俺だけになる。
もしもし?
「………」
あの、もしもし?
「あっ、はい。今晩は…」
電話の向こうから聞こえてきたのは、大人びた声だった。
しかし朝比奈さん(大)とはまた違う。
まるで声は大人びているが、実年齢とは違う。
そんな感じだ。
ん?
そんな子に俺は心当たりあるぞ。
ミヨキチ?…ミヨキチか?
「あっはい、そうです。今はお忙しいですか?」
妹と同学年であり親友で、この敬語が入る喋り方。
ミヨキチこと吉村美代子。
いや、普通に暇だが…
「そっそうですか、良かった」
そう言えばミヨキチが俺に電話をくれるなんて珍しいな、前にしてきたのは春休みだっけ?
「覚えてくれていたんですか?恐縮です」
俺相手に「恐縮です」などと使ってくると変な感じだが、小学生にしてミヨキチはそう言う子なのだ。
そんな、かしこまらなくても良いぞ。俺はそう言うことを気にする人間じゃないから…
「いえ、でも…」
そんなことより、俺に何か用があるのか?
「あっ、そうでした。お兄さんは週末は暇ですか?」
今週の週末ね…
脳内スケジュールをめくって見ると、週末どころか今日以降も何も予定は入っていない。
別に予定は入ってないぞ、後から入る可能性はあるが…
後から入る可能性とはハルヒの突発的活動のことである。
もっともハルヒは、夏休みのSOS団孤島合宿の打ち合わせを古泉とやっているので可能性は著しく低い。
「そうですか…。それじゃあ先着で私が入れてもいいですか?」
ああ、かまわん。可能性は低いからな。
そう言うと電話の向こうから一呼吸聞こえた。
「えと、それじゃ用件を言います。週末に私と会ってください」
えっ、会う?
「いけませんか?」
いやかまわないが会うくらいなら妹を通して言えば良いし、電話なんかいらないんじゃないか?
「すいません、私の気持ちの問題です…」
そうか、それなら良いんだ。
「いつ、どこでにしますか?」
北口駅に朝10時で良いか?
「はい、大丈夫です」
そうか、それじゃそういうことで…
俺は電話を切ろうとした。
「あの、ちょっと待って下さい」
ん?何だ?
「妹さんには内緒にして下さい」
なんでだ?ケンカでもしたのか?
「とにかく内緒にして下さい、それで妹さんを通さずに電話にしたんです」
なるほど、電話でかけてきたのはそれが原因だったのか…
しかし、理由が気になるな。
だがミヨキチの口ぶりからすると、触れて欲しくないことなのが分かったので詮索はしないことにした。
分かった。
「それじゃあ、お休みなさい」
おう、お休み。
向こうが電話を切ったのを確認してから、通話ボタンを押して俺も切った。
子機を戻しにリビングに行くと風呂上りの妹に会った。
妹は熱気をもわもわ出しながら俺に話しかけてきた。
「キョン君、子機なんか持ってどうしたの?」
谷口から電話があったんだ。週末にゲーセン行かないかって…
ミヨキチに言われたとおり、嘘をついた。
「ふぅ〜ん」
妹は出来るだけ無表情を保っている俺の顔をマジマジと見てくる。
「キョン君、一つ聞いて?」
おう。
「ミヨキチから電話があったら、絶対に私に言ってね」
何でだよ、そもそも来る可能性なんか無いだろ。
「女の勘で来そうなの…」
女の勘ってお前まだ小5だろ。
「来そうったら来そうなの、じゃっキョン君お風呂開いたよ〜」
そう告げて妹は去っていった。
第二章
今日は日曜日。
心配してたハルヒからの緊急の呼び出しは今のところ無い。
ひどい時はお昼過ぎまで惰眠を貪っているのだが、ミヨキチとの10時の約束に合わせて8時に起きた。
寝間着を着替えて部屋を出ると寝ぼけ眼の妹に会った。
「アレー、キョン君お出掛けぇ〜?」
ああ、谷口と行ってくる。
「行ってらっしゃ〜い」
どうやら谷口とゲーセンに行ってくる、という嘘を信じ込んでいるようである。
リビングで軽い朝食を摂ると少し早めに家を出た。
北口駅前午前9時40分。
俺にしては珍しく、20分前に着いた。
自転車を駅前の駐輪場に料金を払って止めると、ミヨキチの姿を探す。
これがSOS団の不思議探しなら良いのだが、今日は違う。
遅刻しても喫茶店の飲食代を払わされないので、少し損した気分だ。
駅前は人がごった返しており、SOS団の時と違い探している人間は一人なので大変だ。
今、思うと光陽園駅にすれば良かったと後悔。
地元のあの駅ならこれほどの人はいないので楽なのだ。
ただ、周りには住宅街のほかには商店が数件ほどしか無いので、にぎやかなこちら側に当然出てくることになる。
結局、どっちもどっち一長一短なのだ。
これ以上このことに考えても無駄と判断した俺は、ミヨキチを探すことに集中する。
「お兄さん?」
唐突に後ろから声を掛けられた。
振り向くとそこにはうちの妹と同い年とは思えないほど大人びた(妹が子供びているのかもしれないが…)ミヨキチの笑顔があった。
ミヨキチ…
「おはようございます。待ちましたか?」
いや、今来たところだ。それよりミヨキチの方が待ったんじゃないか?
「大丈夫です。待ったとしても私が誘ったので…」
…そうか。で、今日はどうすればいいんだ?
俺は今日、彼女からは「会ってほしい」と言うこと意外何も聞いていない。
さすがに当日になれば彼女の方から話してくれると思ったのだ。
「特に今回は何も決めてません。お兄さんが決めてください。私はそれに付いて行きます」
それで良いのか?
「はい、なんとなく会いたくなったんです。妹さん抜きで…」
妹とケンカでもしたのか?
「してませんよ。至って妹さんとの仲は良好です」
なら良かった。じゃあ行こうか…
正直、頭の中は真っ白だったがここにずっといても何も始まらない。
「はい」
ミヨキチも同意し繁華街の方へ歩き始めた。
「キョン君、やっぱり嘘付いてた…」
街路樹の陰からキョンの妹がつぶやく。
「キョンに女がいたとは迂闊だったわ。妹さんから聞いてこっち来て良かったわ」
妹の隣でキョンとハルヒが言う。
「でしょ。おかしいと思ったんです。谷口さんから電話が来るとしたら携帯に掛けてくるはず、家の電話に掛けてくることなんかありえません」
神妙な顔つきでハルヒに言う。
「ありえないってことはないけど、可能性が低かったことは確かね」
少女はことを冷静に見ながら、妹をほめる。
「へへへっ」
「さて、後についていくわよ」
「ラジャー!」
妹は元気に返事をしてハルヒについていった。
第三章
歩き出してしばらくすると携帯に電話がかかってきた。
すまん。ちょっと電話だ。ここで待ってて…
普通の電話なら彼女の前で話しても構わないんだが、相手が古泉だった。
ハルヒのことだろうから話が長くなる可能性がある、
仕方が無いので彼女と一度、離れる。
「はい」
ミヨキチも幸い、快諾してくれた。
「出来るだけ早く戻ってきてくださいね」
と残して…
ミヨキチと別れ脇道に入ったところで電話に出る。
古泉、何か用か?
「用件は一つだけです。貴方、涼宮さんに会いませんでしたか?」
いや、会ってないが…それがどうしたんだ?
「今日、朝の10時に例の喫茶店で夏休みの合宿の段取りについて最終確認をする約束をしたんですが、まだいらしてないんです」
それで何で俺に連絡するんだ?
「いえ、ただ単に貴方のところじゃないかと思いまして…」
何で俺のところなんだよ。
「それが自然だからですよ」
お前の言ってることがさっぱり理解出来ん。
「まあ、現状では貴方に理解は出来ないことでしょう」
現状ではってどういうことだ?
「僕としては貴方に気づいて欲しいのです。ただ、今のところその兆しが見えないので…」
これ以上分からんことを言うなら電話を切るぞ。
「今、忙しいのですか?」
ああ、人を待たせてる。出来れば少しでも早く開放して欲しいんだが…
スピーカーの向こうから古泉がフフフッと小さく笑う声が聞こえる。
気色悪い野郎だ。
「そうでしたか。でしたら仕方がありません。他を当たってみます」
ああ、そうしてくれ。
電話を切った。
そして待たせているミヨキチの元へと急いだ。
「誰と電話してるんでしょう?」
妹は兄の行動を街路樹の陰から少し身を乗り出しながら見ていた。
そして隣にいるハルヒに聞く。
「多分、古泉君でしょう。私の携帯に何度もかかってきてる」
「なんであなたへ電話がかかって来るとキョン君に連絡が行くと思うんですか?」
「女の勘よ」
「ふぅ〜ん…」
妹は疑いの眼差しでハルヒを見る。
「何よ」
「いえ、何でも…」
妹とハルヒはさらにキョンの監視を続ける。
第四章
「お兄さん、私たち誰かに見られてませんか?」
古泉との電話越しの会話を終え、ミヨキチと合流すると唐突に彼女が言った。
へっ?俺は今まで何も感じなかったが…
「私はお兄さんと朝、あった時から感じるんです」
そんな前から?
「はい」
言われて周りを見回す。
特に怪しい者は付近には見当たらないが…
「私の気のせいでしょうか?」
多分そうだろ。
「そうだと良いんですが…」
ミヨキチは曇りがちな表情を浮かべる。
そう言えばまだこれからどこに行くか決めてないんだが…
「お兄さんはどこか行きたい所無いんですか?」
って言われても無いんだよな…
「弱りましたねぇ…」
すまん、休日は家でゴロゴロしてることが常だから思いつかない…
ミヨキチは少し考える仕草をしてすぐに目を大きく見開く。
「今、私に行きたい所が出来ました!ホントはお兄さんの好きな場所へついて行きたかったんですが、私の行きたいところに付き合ってくれますか?」
ああ、そう言うことなら構わん。付き合うよ。
こうしてミヨキチに言われるがまま、俺は繁華街の奥へついて行った。
「ミヨキチ、何考えてんだろ。キョン君をどこへ連れてく気なの?」
妹が珍しく小さくミヨキチに怒りの感情を露わにする。
「妹ちゃん、落ち着いて。何もキョンを怪しい場所に連れてこうって決まった訳じゃないんだから」
隣にいるハルヒが妹をなだめる。
言葉の上では冷静さを装っているが、ハルヒのこめかみはうっすらピクピクしている。
それを見て妹がケラケラ笑う。
「何がおかしいのよ!」
と妹に語気を荒げてハルヒが言う。
「だって私はどこに連れてくの?って言っただけです。怪しい場所なんて一言も…」
「そっそれは………。言葉のアヤよ、アヤっ」
「でも、ミヨキチって大人っぽい子だからちょっと心配なのも確かです」
「ふ〜ん…。そうなんだ」
女性は少し余裕がある態度で答える。
「自信満々ですね?」
「少なくとも大人っぽいだけなのよね?あたしはもう大人なんだから…」
「その言い方、まるで私が子供みたいな…」
女性はわざとらしくあさっての方向を向いて口笛なんか吹きだした。
「その対応、子供っぽい」
妹はジトーっとした目で女性を見るがやがて諦めて観察を再開し始めた。
実を言うと俺もミヨキチの行きたいと言う場所には興味があった。
前回は映画館と喫茶店。
今回はどこへ?
第五章
なるほどね。
確かにミヨキチみたいな子には入りにくそうだが………。
そこは全国展開しているアニメショップ。
マンガやアニメグッズ、CDやDVDが売っているらしいが…
これは大人だから入れるってもんじゃないと思うぞ。
俺も行ったことないし、確かに入るのを躊躇いたくもなる。
入ったらあっちの世界に行っちゃいそうな気がして…
いやいや、今現にここに入っていく人はみんな突破した場所なんだぞ。
俺にだって行けるはずだ。
隣のミヨキチの様子を伺うと顔が青ざめている。
なっなあ。ミヨキチ?
「なっなんでしょう?」
なんでここに入りたいんだ?
「かっ風邪を引いた友達がどうしても欲しいマンガがあって、頼まれてたのを思い出したんです」
普通の書店で置いてないのか?
「置いてないマンガなんだそうです」
う〜ん、困った。
「何を入るの躊躇ってるのよ」
その時後ろからハルヒの声がした。
ハルヒ、ここに入ったことあるのか?
「常連よ、」
意外だ。
あのハルヒがこう言う店の常連だったなんて…
「良いじゃない、誰が何に興味を持とうと…」
「みくるちゃんを入団させる時に言ったじゃない、萌えは重要な要素って」
そう言えばそんなことを言ってたな。
「さっさと入っちゃいなさいよ」
そうは言っても心の準備が…
「ぐだぐだ言ってないで、ほらっ!」
ハルヒに胸倉を掴まれてめでたくご入店させられた。
ミヨキチも意を決して入る。
中は異様な空気に包まれていた。
基本的には本や雑誌が置かれているが、壁面にはポスターなどが沢山見受けられる。
そして店内にいる人間はそれっぽさが漂う人と普通な感じの人が半々。
意外にも学校帰りに寄っているのか制服姿の学生もいる。
どうやらヲタクだらけというのは俺の一方的な偏見だったみたいだ。
隣ではミヨキチが目を丸くしている。
「意外に普通な人が…」
「何も恐れることは無いわ」
ハルヒは自信満々に言う。
すまん、ハルヒ。ありがとうなと俺も素直に礼を言う。
ハルヒの言う通り躊躇は無用だったのだ。
「なんで礼なんて言うのよ、私は特に何もしてないんだからね、まあ一応言葉は受け取っておくけど…」
「ありがとうございました」
ミヨキチがハルヒに丁寧にお辞儀する。
「あんたも別に謝んなくてもいいのよ」
気のせいか。
ハルヒの顔はほんのり赤く染まっている。
きっと、沢山の人からお礼を言われたことが無かったのだろう。
そう言えばハルヒは何でこんなところにいるんだ?
第六章
そう言やハルヒ、お前はなんでここにいるんだ?
尋ねられたハルヒの表情が固まった。
笑顔のままで。
「えと…キョン?何でそんなこと聞くかな…かな?」
表面上は笑っているが目が笑ってない。
そしてミヨキチも。
「そう言えば私も気になってたんですが…」
古泉がお前を探してたぞ。早く行った方が良いんじゃないか?
ハルヒはわざとらしく目をパッチリ開け
「そ〜言えば古泉君と約束してたんだっけ?忘れてたわ。キョン、教えてくれてありがとう」
おいっ、ハルヒ。質問に答えろっ!
俺の言葉は耳に届かなかったらしく、猛ダッシュしてその場から消えてしまった。
「私がさっきから感じてた視線はもしかして…」
ミヨキチは真剣な顔をして考えていた。
一時俺とミヨキチは立ち尽くしていた。
あいつ行っちゃったよ。
と、となりにいるミヨキチに沈黙を破るために話しかける。
「そう言えば私、自己紹介をしてませんでした」
ミヨキチはキチンと自分のことを知らせたかったらしい。
あいつはな、俺の同級生で涼宮ハルヒっていう奴だ。
と俺からあいつを紹介してみる。
「同じクラスなんですか?」
クラスどころか部活みたいなのも一緒だ。
「部活…みたいなもの…ですか?」
ああ、学校側は正式に認めてない部活だから部活とは言えないんだ。
「どんな活動を?」
正直なところ、俺もよく理解してないんだ。
「ふ〜ん、それじゃ彼女に私のことも紹介しておいて下さい。名乗らないと自分が落ち着かないんで…」
おう。
「目当ての物は揃ったんで最後に一ヶ所。寄ってもいいですか?」
ああ、分かった。
ミヨキチが最後に寄りたいところとはどこなんだろうか?
「ハァハァハァ…」
キョンとミヨキチの視界から消えたところでハルヒは走るのをやめ、妹と合流していた。
ポケットでは携帯がブルブル振動している。
恐らく古泉からの電話だろう。
ハルヒの前では妹が怒っている。
「何むやみに話しかけてるんですか!こっちの行動がばれちゃいますよ。キョン君は鈍いから心配ないけど、ミヨキチは変に鋭いところがあるんだから」
「むぅ〜」
小学生に叱られていること事実が受け入れられないのか、ハルヒの目は横一線になっている。
「聞いてるんですか?」
「妹ちゃん、ごめん。そろそろ古泉君のところに行かないと…」
「あっ逃げる気ですか?」
「それじゃあねっ!」
ハルヒはまだ体力が完全には回復してないはずだが、また猛ダッシュしてその場から去る。
「ひっ卑怯者〜!」
妹の叫ぶ声だけがその場に響いた。
第七章
ミヨキチと一緒に次なる目的地へと歩く。
繁華街から離れ、再び住宅地に戻ってきた。
方向を見る限り、俺の家に向かっているみたいだ。
ところが俺の家を過ぎてもミヨキチはまっすぐ進んでいく。
やがて目の前に土手が現れた。
春に朝比奈さんと歩いたあの川だ。
「ここです」
とミヨキチが目的地に着いたことを告げる。
川幅はたいして広くなく、両側に桜の木が並木を形成している。
最後にここで何するんだ?
「それは…」
「ちょっと待ったぁ〜!」
聞き慣れた声がミヨキチの声を遮るように響く。
声のしたほうを見ると、そこには未だかつて見たことの無い険しい表情をした妹が立っていた。
「キョン君、先に帰ってて」
台詞は優しいが、表情は冷たい。
「言ったよね?ミヨキチから電話がかかって来たら私に伝えてって…」
ミヨキチの表情は固まっている。
二人の間に何かあったのか?
「キョン君、今先に帰ってくれれば伝えなかったことは許してあげる」
たかだか小学5年生の妹だが、有無を言わせないオーラを出している。
みっミヨキチ?
ミヨキチにとりあえず聞いてみる。
「どうやらあなただけは騙せなかったようですね」
ミヨキチは呆れたような表情を作る。
がしかし声は普段より低い。
「キョンさん、先に帰ってもらって結構です」
ミヨキチはそれで良いのか?
「はい、彼女と徹底的に話します。続きは後日と言うことで…」
「また、日を改めてやる気なの?私は許さないから!」
思わず許可を得たので帰ることに決めた。
妹は小学5年生のハズだが、流している空気にはそれらしさを感じさせない。
「お母さんに言っといて…、夕ご飯までには帰るって…」
そして妹の残した台詞の上では、全く緊張感は無かった。
第八章
「さてと…」
妹はキョンへの若干崩した表情(それでも纏っている空気は変わらない)から本気の表情へ戻す。
「どうしてこうなったのかしら?ミヨキチ…」
「別に私はキョンさんと合ってただけですよ」
「どうして会ったの?理由が知りたいんだけど…」
妹は語尾を強く言って、まるで言うことを聞かない男子高校生のような態度だ。
「会いたかった…、それだけじゃダメですか?」
「ちゃんとした理由が会ったハズよ。でなきゃあなたが行動を起こせるはずがない」
「なるほど…、私の性格はお見通しってわけですか」
「何年の付き合いだと思ってんの、ミヨキチと私は…」
「それもそうですね」
「っで、理由は!」
「あなたの思ってる通りですよ。キョンさんと仲良くなろうと思ってました」
「私がいると分かってて?」
「そうです。あなたに内緒でキョンさんに連絡したのもそのためです。でなきゃ絶対にあなたから妨害が来るので」
「キョン君の様子が変だったから疑ってみて正解だった。もし、谷口さんから電話がかかって来るなら家電(家の電話)じゃなくて携帯にかけてくるはずだから」
「やっぱし、キョンさんのガードは堅いか…」
「例えミヨキチ、あなたが私の友達だとしてもキョン君は渡さない!あのハルヒって人にも!」
「あの人も…ですか、予想はしてたんですけどね…」
「今回は協力してもらったけど次回からはライバルとして思う」
「他にキョンさんのお相手には心当たりある?」
「キョン君の一つ先輩の朝比奈さん、同級生の長門さん。先輩の鶴屋さんも怪しいと思ってる」
「さすがあなたね。しっかりチェックしてるのね」
「キョン君は誰にも渡さない。キョン君は私だけのものなんだから…」
「それだけ強く思っているなら私は引く」
ミヨキチがその言葉を発した途端、妹から急速に毒気が抜けて行く。
「さすがミヨキチ。これで元通りね」
普段の彼女に戻るスピードが、あまりにも速かったのでミヨキチは面食らったが、自分を許してくれた妹に感謝し「そうしてくれると嬉しい」と笑顔で言う。
「うん、それじゃまた明日学校でね」
「バイバイ!」
別れの挨拶は、どこから見ても小学生同士のそれだった。
エピローグ
最後に別れた時の妹の様子は限りなく怖く、「もしかしたら夕飯までに帰ってこないほど話が長引くのか?」と思ったが、意外にも妹は早く帰ってきた。
雰囲気、オーラ、機嫌…
どれをとっても普段通りだった。
翌朝、朝食を済ませ妹といつも通り家を出る。
そして家の前にはミヨキチの姿が…
こちらも昨日の夜以前と変わらず、元に戻っていた。
「おはよう!」
「おはよう、ミヨキチ〜!」
と朝の挨拶も普通。
挨拶を済ませたミヨキチがトコトコと俺に寄って来て、「昨日のことは全て忘れて下さい」と言い残して妹と共に俺の前から去っていく。
あれほど仲が悪そうに見えたのだが、一体どうやって仲直りしたのか謎だ。
俺は家の前で1人立ち尽くし上手く晴れた青空を仰ぎ見る。
そしていつも通り1人で寂しく登校し、怠惰な授業を送り、放課後の団活でハルヒから合宿先が絶海の孤島になったことや、その日程を知らされたのだった。
おまけ
妹やキョン、ミヨキチから逃げたハルヒに1本の電話がかかって来る。
「古泉君…」
案の定、相手は古泉。
「良かった…、やっと繋がりました」
「古泉君、ごめんね。いろいろと立て込んでて…」
「全て、報告されてます」
「?」
「おっといけない。今のは気にしないで下さい」
ハルヒには何も分からない。
古泉は機関に頼み、ハルヒを探していたのだ。
その過程で全てを知ったのだ。
「何か気になるわねぇ〜」
「それよりもいつものファミレスに来て下さい。待ってますから…」
古泉は問答無用と言った感じで切る。
「待たせちゃったのはこっちだし、気にしないでおこうかしら?」
ハルヒにしては珍しく詮索をすることをせず、古泉の待つファミレスへ向かうのだった。
あとがき
はい、今回はハルヒキャラでも超マイナーなミヨキチ、本名吉村美代子さんのお話でした。
多少発表ペースが遅れてしまいましたが無事完成、今日更新終了できました。
次回作はハルヒと別作品の同時進行なので更に公開が遅れます、確実に…
作品内容についてですが、いろんなサイトを見てもミヨキチをメインにした作品はまだまだ少ないようです。
まあ、憤慨で登場した人物なのでシリーズを相当読み進めないと知ることが出来ないのですが…
その憤慨の話、「編集長☆一直線!」でのミヨキチの様子を見ているとキョンLOVEでも行けるんじゃないか?と考えたことからこのネタが浮かびました。
それ以降、僕の脳内でミヨキチ=キョンLOVEに変換されていました。
今回の対決で妙にすんなり妹に譲りましたが、この先話に絡ませてみようかな?とかも考えてみたりしてます。
キョンをめぐってミヨキチも奪い合いに参戦!とか…。
ただ、次回の涼宮ハルヒの二次創作シリーズではミヨキチは出る予定はないので、やるとしたら次々作辺りになりますね。
自分次第ですが…
今回は珍しく沢山喋ってますが最後に一つ。
ハルヒにテンプレートなツンデレの台詞を喋らせたのは初めてですね?(おいっ!)
それでは次回作で…
2008 6/21 コンプレッサー狂
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2008年06月21日(土) 22:43:52 Modified by kq800