SFシリーズ『プリンセス・プラスティック』の設定の管理用。


タイムラブ 

  「プリンセスレボリューション・エンジェルスティア」内に収録
         DLsite.comで販売中。
         本編ダウンロード購入 <http://home.dlsite.com/work/=/product_id/RJ045518....>
                                      Junichi YONETA 米田淳一

「君ならわかっているはずだ」
 光学迷彩を着た上にコートと帽子をかぶって身を隠した男は、ミスフィと会っていた。
「非番のところらしいが、事情が事情でな」
  わかっています。
 ミスフィは、この架空空間の公園の東屋で、アルフォンス・ミュシャの絵のような典雅さでたたずみ、透明な男の前で真実の紐を解こうとしていた。

  タイムラブ、それはすなわち、世界最初のタイムマシンであり、ドイツ時空軍団の始まりです。

 1944年にXB型とされるタイプの潜水艦Uボート、U-234が就役した。
 それは武装を撤去し、貨物室を設け、ウラン235、核兵器に使えるウラン酸化物560kgをはじめとする260トンの貨物、日本海軍の士官二名、便乗者十二名を収容し、ナチスドイツ降伏寸前の1945年3月25日にキール軍港を出発した。
 その約一月半後の5月3日ヒトラーは自決し、後継者としてのデーニッツが降伏命令を全ドイツ軍に発令しました。
 北上を続けていたU-234の日本海軍の士官二名は服毒自殺し、このU-234はアメリカ軍の手に落ちましたが、その後どうなったかは不明のまま、歴史の中に埋もれていきました。
 アメリカ政府もそのウランをはじめとした貨物の行く先も用途もコメントせず、さらにナチス組織、ヒトラーを含めた命令書の類でさえもその計画については一切不明、しかしそれでもU-234は確実に存在し、五月四日にアメリカに降伏、日本海軍の士官は水葬にされました。
「そうだ」

 しかし、真実はこうだった。
 ナチスと日本で研究されていたのは、Nexzip網を使った超時空の利用であり、それは時空の極微細構造、生命鍵を含めた生命ドットの研究であり、脳研究でした。
 そして、ウランと言うのはカンの鈍い人々をだますための嘘でした。
 本当は、その潜水艦の260トンの貨物こそ、一人の母親と、その卵子から生まれた四十人の子供の脳を使った時空操作装置、世界初のタイムマシンであり、彼らはタイムラブ、超時空研究室でした。
 便乗の十二名は医療や物理学・工学のスタッフであり、二名の日本海軍の士官は登戸研究所でNexzip応用研究をしていた技術士官でした。
 そして、米軍はそれを察知し、必死に捜索していましたが、U-234は量産性を犠牲にしたまま高性能を狙った当時最新のレーダーやソナーを使い、隠密のまま北上し、そしてアメリカ軍が収容する前に、そのタイムラブは時間を移動した。
 そのタイムラブは21世紀はじめには日本の東京都・墨東さつき会清川病院(>参考・極闘シリーズ)や、22世紀のさまざまな研究施設と時空を超えて扉によって結合されました。
 そのなかには、日本海軍の防空巡洋艦〈綾瀬〉の艦橋後部に接続されたこともありました。(>参考・防空巡洋艦〈綾瀬〉)
 
 ミスフィは考えを取り戻した。
 
  わかっています。その時空研究が、結果ナチスの残党にも、正当な近江さんにつながるワークアーツの生命鍵の開発にも使われました。
  鉛と呼ばれる生命鍵も、また33世紀の超未来で時間順序保護をつかさどる時空管理機構と争い続けるナチス永久帝国を目指すU−X666や空中要塞ザルクハイムとその指揮官・フラウ・マッケンゼン親衛隊大佐の力のもととなるコアシステムの原型も、そのタイムラブです。
  そのタイムラブは、時空を自在に航行しました。そして、多くの天才たちに、天使となって脳に下りてくるアイディアを授けるとともに、その天才たちを迎え、研究を深めました。
  ニーチェ、アラン・チューリングなど、多くの天才が発狂し、命を失う結果と引き換えに、時間と生命の自由のために努力しました。
  それは20世紀末、ペンダント形の端末、ジェネレーターとしてNexzip理論の応用として使われる。
  時系列の混乱は、これは記述の問題ではなく、ドイツで260トンのタイムラブが作られたときからすでに時系列は混乱していた。
  つまり、時間は、世界はパラドックスから生じた。
  故に矛盾し、不条理を抱えている。
  しかし、だからこそ、矛盾と不条理を埋めようと、モーメントを持ち、それが空間の揺らぎに介入し、時間を誕生させ、ここまで進化させた。
  世界は、秩序と混沌、構築と脱構築、そして明晰な理論と不条理が対になり対称しあいながら、それによって進化を続けている、生命そのもの。
  そして。
「行き着いたな」
  はい。
  アツコさんがなぜ金星の研究施設にいたか。
  それは、生命の秘密を知ったものとして、40人の子供のために卵子を提供するためでした。
  その子供に、戦役を起こしたアルテラも、そしてパイモンも、近江さんのおじいさんも、御門さんのお母さんもいる。
  みながこの事態を引き起こしている。
「それで」
  パイモンも、その40人目の子供として、こうして姉シファで情欲を満たすことでのみ、生き残れると信じている一人。
  
  もともとは再帰理論から話は始まりました。
  再帰理論を研究していたソ連の国立157数理研究所のラスター・セニョルコフを中心としたグループは、後にミレニアム問題と呼ばれる7つの命題をほとんど解いていました。
  再帰理論についてはチューリングをはじめとする当時最高の数学者が取り組み、そのなかで自己複製・自己増殖・自己言及するプログラムやロボット、そして進化するアルゴリズムが数理的に担保される結果となった。
  つまり、数学と物理学の共同によって作られた核開発は、その次なる変革、遺伝子的アルゴリズムの応用と、遺伝子工学の発展にもまた同じように作用する。
 
  しかし、当時のソ連の首脳部はそれを理解できなかったのにもかかわらず、核兵器開発のためにその壁の向こうの人々を研究させたのだと考え、軍事機密の向こうにさらに閉じ込めようとした。
  そのため、グループの功績は公表されず、なおかつその公表を目指して亡命を企てた嫌疑で彼らは粛清され、収容所に送られたのである。
  その謎のまま、ソ連は崩壊したが、あとを継いだロシア共和国のなかでも、見出されることはなかった。
  それを発掘したのが、近江の祖父・和実。
  ロシア語が堪能だった数学者・近江和実はロシア国立図書館で、運命の出会いをする。
  それが、セニョルコフ方程式である。
  それはクレイ研究所が懸賞をかけたミレニアム問題の解決を導くものであったが、同時に生命鍵の秘密にもつながっていた。
  それに気づいた近江和実は、その可能性に投資し、ワークアーツ社を創立し、初代会長となった。
  初代社長は船堀。そして作ったのがFPGAを使った「ジェネレーター」だった。
  クリスタルのペンダントのなかに作った回路は、シンクロナイズさえすれば、人々に自在な夢を見せる、一番鮮烈な仮想体験であり、それはNexzipアドレスの利用でした。
  それも生産拠点は海外で生産し、それを日本に逆輸入で持ち込んでひそかに販売しながら、少しずつ人材を集め、そして、SC機関、SCサイクル核融合炉の実験運転をのっとった沢藤の事件で、巨額の資金を得て、生命鍵の実用化と、ハイパールームズの開発を行った。
  その過程において、タイムラブとの接触は何度もおきていたのでしょう。



  
  そして、更なる数字の一致がある。
  それはシファに増設されたワームホール内施設。(>ハリアー・バトルフリート)
  クドルチュデスへの対策システムとされたけれど、おそらく、それは、タイムラブでしょう。
  それを考えれば、近江さんが脆弱なExzip網をいやがって、時代遅れのパッケージインストールを選んだと合点がいく。
  
  パラドックスは、すでにおきていた。
  逆を言うなら、パラドックスがおきたことで、人類も、時間そのものも、生きているし、進化していく。

「そうだ。よく調べたな」
  私には時間がありました、
  姉シファには許されなかった、時間が。
  でも、姉も同じ結論です。
  そして、姉が時空を生じさせたと同時に、アツコさんはタイムラブで研究し、姉を生む金の鍵を作った。
  つまり、アツコさんと姉は、重なり合っている。
 ミスフィは、目をそらした。
  正直、嫉妬しました。
  私はその姉のスペア、予備機に過ぎない。
  そして、研究都市テオス破壊事件も、それを行った私を支配したZIOT.UCFも、もともとはこの私の嫉妬に共鳴しあって形態形成し、そして事件を引き押した。
  私はそこでも予備機に過ぎない。
 男もつらそうだった。
  でも、私は予備機として、予備に徹します。
「さすが、ミスティックと呼ばれるだけのことはある。それだけ真相を見抜いていたのか」
 ミスフィはうなずいた。
「わかっているな。君の任務」
 再び彼女はうなずいた。
「かつて地球に人が、命が満ちていたことを残すために、人類の命の証を、もっていってくれ。
 シファからできるだけ離れた、かなたへ」
  香椎が現れた。
「ミスフィ、わかっているわ」
  あなたも聡明ね。
「UNOMAの英雄だもの」
 香椎の笑みに、余裕はなかった。
 ミスフィはその香椎に口付けした。
「楽しかった。あなたと出会えて。
 また、しましょう」
 ミスフィは、涙した。
「いやね。こんな空気なのに、私、泣けもしない」
 香椎は悲しく笑った。
 そして、その手元に、近路符、ショートカットが浮かんだ。
「ありがとう」
 ミスフィは、その符が押されると同時に、アップデートを開始した。
 
  −超光速航行システムを構成しています。
  −システムクラスの情報を収集しています。
  −アップデートプログラムを開始します。
  −ウイングナイトシステムをアップデートしています。
  −バージョンの違うナビゲーションシステムを統合します。
  −構成終了。
 
「さよなら」
 香椎の言葉と共に、ミスフィは、すうっと消えていった。
 極光速の世界に移行したのだ。
 
 香椎は、涙を堪え、男を見た。
「私も、仕事しなきゃ」
「強いな」
「でもミスフィに比べれば、ほんとうに小さな仕事です」


  • twitter
  • livedoor クリップ
  • はてなブックマーク
  • delicious
  • Yahoo! ブックマーク
  • niftyブックマーク
  • Buzzurl

Wiki内検索

フリーエリア

フリーエリア

Wikiをはじめる

マイページ