涼宮ハルヒコくんの憂鬱 作者:森羅
☆長門くん&鶴屋先輩 VS サンタの回☆
それは雪がしんしんと降る、ある十二月下旬のことだった。
学校が冬休みでも関係なく団活があるSOS団なので、このクソ寒い中わざわざ学校に登校して部室でぬくぬくと過ごしていたあたしはこのまま死んでもいいというぐらいの気持ちでうとうとしていたのだが、その気持ちは問題児・涼宮ハルヒコによってブラックホールが発生しているあたりまで光速で吹っ飛んでいってしまった。まあ、そんなことも今となっては日常茶飯事だったのだが、まさかあたしだけあんな扱いになるとは思ってなかったぞ、ハルヒコよ。
「今日はクリスマスパーティをするぞーっ!」
いきなりドアを蹴破って登場したハルヒコの第一声はそれだった。ハルヒコがわけのわからないことを叫びながら入ってくるのはいつものことなのでその辺はスルーである。
普段ならあたしが呆れつつ理由を問うのだが、今日ばかりは寒くてそんな体力すらない。あたしは四季の中で冬が一番嫌いだからな。寒い季節は秋だけで十分さ。ちなみに、あたし以外にハルヒコの言葉に対して不平不満を言う奴はいない。長門はあたしがプレゼントしたウサギのヘッドホンをつけて乙ゲーに夢中だし、朝比奈先輩はメイド服姿で嬉しそうに手を叩いてるし、一姫はニコニコ微笑んでるだけだ。
てなわけで、ハルヒコ発案の謎のクリスマスパーティはあっさり始められる―――はずだった。
「こんのバカキョン子があああぁぁぁっ!!」
「痛ぁぁっ!!??」
何でか知らんが突然殴られた。
「バカはどっちだ、この野郎!思いっきり殴りやがってぇ・・・。いきなり何なんだよ!」
あたしが睨みつけると、ハルヒコは両腕を大きく振り上げて、
「あのなぁ、そんな軽いテンションでやってたらヤツらに簡単に殺られちまうぞっ!!」
ヤツらって誰だあああっ!!
あたしは殴られた頬をさすりながら立ち上がると、あたしを見ておろおろしている朝比奈先輩に「大丈夫ですよ」と言っておいてから、心の中で叫んだ言葉を口にした。
「で、ヤツらって一体誰なんだ?」
「そんなことも解らないのか?まったくしょうがねえな。これだからいつまでたっても平団員なんだよ」
そうかい。あたしはこのままずっと平団員で結構さ。
「ふーん。ま、いいけどよ」
いいのか。
「仕方ねえから、この物分かりがよくないキョン子のために説明してやろう!」
そう言うとハルヒコはいつになく真剣な顔で語り始めた。
「ヤツらはこの時期になると必ず現れ、山のようなプレゼントを担いだまま軽々と屋根から屋根へ飛び移り、その家々に侵入するが、決して誰一人として見たことがないという謎の集団・・・・。おそらくヤツらは諜報活動を主とした極秘の組織集団なんだ・・・」
あたしは嘆息しながら、ふと横目で一姫たちを見た。なんと、一姫や朝比奈先輩はものすごく真剣な面持ちでハルヒコのアホな話を聞いていた。一姫や朝比奈先輩だけではない。長門までゲームを中止して聞き入っている。意味が解らんぞ・・。何でこいつらはこんなに真剣に聞いてるんだ?はっきり言ってこいつが言っている奴らというのはだな・・・・。
「人の話を聞けえええぇぇっ!!!」
「うぎゃあああっ!」
今度はポニーテールを思いっきり引っ張られた。さすがにこれは涙目になる。
「俺の話を聞いてるのか!?ったく、団長より先に話のオチを言うなんて言語道断だぞ!」
「うるせえ!つーか、何であたしがそいつらの正体を言おうとしたこと知ってんだ!これはあたしのモノローグだから口には出してないんだぞ!それ以前に、あたしがそれを言おうとしたってことはお前の話をちゃんと聞いてたってことじゃないのか!?」
「そう!その集団とはつまりサンタなんだよ!」
「無視すんな!」
相変わらず自分勝手な奴だ。自分に都合の悪いことはすぐに抜けていくらしい。
「即ちっ!」
ハルヒコが喚きながら机を叩いた。お前の馬鹿力だと机が壊れるのもありえなくもないからやめろ。
「今年発足した我がSOS団を危険視し、ヤツらが襲いかかってくるかもしれねえんだよっ!!」
「それは大変なことになりましたねえー」
「・・・ユニーク」
「ぼ、僕たち食べられるんですかぁ?」
ハルヒコの九割が被害妄想の発言にSOS団団員が各々の反応を見せた。ちなみに言ったのは一姫、長門、朝比奈先輩の順番だ。あたし?あたしは呆れて何も言えなかったよ。
ハルヒコはあたし達の反応が気に入ったのか手下を手に入れたガキ大将のような笑みを浮かべて、
「だから、今のうちに綿密な作戦を立てておいて、サンタという脅威に立ち向かうんだよ!」
何だか聞いてるこっちがアホらしくなってきたぞ。
「そんで、これがその素晴らしい作戦!もちろんこれを考えたのは俺だ!」
何やら得意げな顔のハルヒコはどこに隠し持っていたのか知らないが、机の上に『THE☆作戦』と書かれたフリップを置いた。そのフリップに書かれていたハルヒコ曰く素晴らしい作戦というのは以下のようなものだった。
まず、お隣さんのコンピュータ研究部(コンピ研)の窓にSOS団と書いた張り紙を張り付けて、そこをSOS団の部室と思わせる。
次にそのコンピ研の部室にあたしが待機して、ターゲットのサンタが部室内に入ってきたらハルヒコたちに連絡する。
あたしがサンタを監視している間、ハルヒコとその他諸々は本物のSOS団部室でクリスマスパーティをやる。ハルヒコが言うには一番敵に見つかりやすい役割で、それに選ばれなかったあたしは幸せな人らしい。
おい、この作戦明らかにおかしいだろ。はっきり言ってあたしはこの作戦に猛反対だ。だが、ハルヒコはあたしが反対するのを予測済みで、
「以上だ!異論があるならキョン子以外で頼むぜ!」
と言いやがったのである。アイツ、あたしにツッこむ隙も与えない気だな。
あたしが少し憂鬱になっていると、唐突にドアが勢いよく開いた。元気よくSOS団の部室にやってくる人物と言えばあの人しかいない。
「やーやー♪はるやんの頼みで俺も参加することになったにょろ〜っ」
ハルヒコと同じ百ワットの笑顔で入ってきたのは、朝比奈先輩と同じクラスのSOS団名誉顧問の鶴屋先輩だった。鶴屋先輩を見たハルヒコはさらに笑顔になる。
「わざわざすまないな鶴屋先輩!なんか鶴屋先輩がいてくれると心強いんだよ!」
「可愛い後輩の頼みだっ、断るわけないだろっ。それにここって、いっつもおもしろいことやってるからさっ、俺も参加したいんだよねっ」
鶴屋先輩、全然おもしろいことじゃありませんよ。あたしにとっては厄介なことです。
「あのぉ、鶴屋くんは涼宮くんに何て頼まれたんですか?」
「いいこときいてくれたね、みつるっ。それは、」
鶴屋先輩が言いかけると、ハルヒコが慌ててそれを制した。
「それは俺が言うぜ。鶴屋先輩は主にサンタとの戦闘の際に働いてもらうつもりだ!」
ちょっと待て!サンタと戦うのか!?
「当たり前だろ。何言ってんだよキョン子。サンタという脅威を取り除くにはバトって何とかするしかないんだ。今どきのサンタは話し合いではどうにもできねえんだからな!」
お前はサンタの一体何を知ってるんだ!
「フフフ・・・。それは秘密ということにしといてくれ」
ハルヒコはニヤリと笑った。もうどうでもいいよ。好きにしてくれ。
それにしても鶴屋先輩がサンタとまともに戦えるとは思えん。鶴屋先輩は普通の高校生で、相手は得体の知れない何かだ。本当に勝てるのか?大体、サンタなんているのか?
「その辺は大丈夫だよっ、キョン子ちゃん」
はぁ。どの辺が大丈夫なんですか?
「実は俺は鶴屋流古武術を弱冠十九歳の若さで免許皆伝する予定なんだよっ!」
予定!?未来形なんですか!?
「それにその古武術でサンタと戦った時もあるさねっ!」
サンタと!?さすがにそれはちょっと・・・。
「んん〜?キョン子ちゃん、その顔は信じてない顔だねっ?」
そんな嘘みたいな話、信じられませんよ。それにサンタは空想の人物でしょう?実際にはいないんじゃ?
「それがいるんだよっ!サンタっ!その時の写真がこれさっ!」
そう言って鶴屋先輩が差し出したのは一枚の写真だった。そこには妙なポーズをした鶴屋先輩と、
「うわあ〜、本物のサンタさんですねぇ」
あたしの後ろから写真を覗いていた朝比奈先輩が歓声を上げた。なんとそこに映っていたのは鶴屋先輩と、熊のようにでかいサンタらしき人物だったのである。
「これは・・・」
あたしは写真とそれから朝比奈先輩を見てから、何とも言えない気分になる。ううむ、どう返せばいいんだ?
「鶴屋くん、すごいですねぇ」
朝比奈先輩が柔らかく微笑みながら手を叩いた。鶴屋先輩は「だろ〜?」とニコニコしている。
「あの、鶴屋先輩。これってホントに、」
「キョン子ちゃんも褒めてくれなくてもいいさっ!照れるよっ!」
だめだこりゃ。話聞いてない。
密かに溜息を漏らすあたしだった。
他にも何やらごちゃごちゃあったのだが、それはまぁともかく、あたしとハルヒコはサンタの見張り役をする人物―――つまりあたし―――の隠れる場所を探しにコンピ研の部室に足を踏み入れたわけだが・・。
「おい、何やってんだハルヒコ」
窓に何か張り付けている様子のハルヒコの脇腹を小突く。
「何ってお前、ここをSOS団の部室だと思わせるために紙を貼ってんだよ」
「紙?」
外に身を乗り出して窓を見る。そこには『ここがSOS団の部室です』と書かれた紙が貼られていた。こんなもんでサンタを誘導できるのか?
「これでよしっと。そんで後はキョン子が隠れる場所なんだが・・・」
ハルヒコは部室内をぐるりと見回して、
「おっ」
と、小さく声をあげて顔をほころばせた。あたしはハルヒコの視線が固定されているそれに目をやる。
そこにあったのは、いつの日かにやった誰が見ても「おかしい」と言えるハロウィンの時にハルヒコと鶴屋先輩が作成した謎のカボチャ男だった。ボロボロのマントとカボチャを被っているのはハルヒコがどこかからガメてきた人体模型で、カボチャに空けられた穴から無駄にリアルな目がこちらを見ている。
「って、ちょっと待て。まさかあれに隠れろとか言うんじゃないよな・・?」
「さぁ隠れろ、キョン子!」
「よし、全力で拒否する!つーか人の話聞いてた!?」
「もちろんだ!俺はキョン子はここに隠れたいって言ったから言ったんだぞ?はぁ・・・。キョン子、我が儘はダメだぞ」
「誰もそんなこと言ってないんだけど!?」
「うっせえなぁ。お前がこれに隠れることを拒否するなら、俺は拒否することを拒否する!」
「ちょ、ひどくないか!?」
騒ぐあたしを無視して、ハルヒコは人体模型からカボチャを奪い取ると、あたしに被せようとしてきた。
「まぁまぁ、案外似合うかもしれねえぞ?だからほら、ユー被っちゃいなよ〜」
うわぁ何だこいつ、マジでウザい。
あたしはハルヒコのキラキラした目を見ているうちに被ってやってもいいかという甘い考えが頭に過ぎり、ハルヒコからカボチャを受け取って被った。この優しさには我ながら感心するよ。こんなんだから、あたしは良いようにされるんだな。いや、別にこれぐらいだったらまぁいいか。
という考えは本当に甘すぎたらしい。あたしがカボチャを被った瞬間、
「ぷっ・・、くははっ・・!あ―――っはっはっはっはっは!!あはっあはははははっ、あははっ、は――っはっはっは!ひ――、くるし―――っ!!お前最っ高!マジで傑作だなっ!あっははははっ!!」
ここまでこいつに殺意が湧くとは思ってなかったぞ。おい、本気で殴っていいか?
それからハルヒコはしばらくの間、床の上を転げ回っていた。
ところ変わって北高旧館前。そこにコソコソ動き回っている人物が一人いた。
その人物は校舎の壁に張り付くと、ほっと息をついた。
「ふうっ。なんとかここまで来れたわね。だれにも見つからないようにするのって結構大変だわ」
赤い服に赤い帽子、白いつけ髭をつけたサンタにしか見えない恰好をしたその人物は谷口である。谷口は小脇にカッパのミイラ(偽物)を抱えたまま再び動き出した。
(もう、いい加減にしなさいよぉ・・。いつまでこのカッパネタ引っ張ってると思ってんの?もう結構経つわよ・・・)
谷口はぶつぶつ呟きながら壁を伝って走る。
(早いとこカッパ返さなきゃなんないわ。コンピ研の連中、あたしがこれを盗んだって知らないから、わざわざこんなことして返さなきゃなんないのは辛いわね。どれもこれも・・・み〜んな涼宮のせいよぉっ!)
谷口は半泣きになりつつ非常階段を上る。そしてコンピ研の部室の窓に手をかけ、ちらりとその隣の窓を見た。その部屋には明かりがついていて、中から何やら騒ぎ声が聞こえる。ちなみに言うと、そこはSOS団の部室である。
(ったく、何でアホの涼宮が残ってんのよ!涼宮がいるってことはキョン子とその他のヤツらもいるってことね!まぁいいわ。もとよりそんなリスクがあることなんて合点承知の助。もし見つかったとしても怪しまれることなんてないわ。なんたって今日はこの恰好がピッタリ合う絶好のイベントデ―なんだから!)
谷口は視線をSOS団の窓から自分が来ている服に移した。先ほども述べたように、今の谷口の恰好はどこからどうみてもサンタだ。これならハルヒコたちに見つかったとしても何ともない!というのが谷口の考えなのだが、これはどっちかと言えばハルヒコたちに捕まる恰好である。だがそんなことを知らない谷口はニヤリと笑った。
(ていうかホントにカッパいらないんだけど。こんなもの欲しい人なんているのね、しかも女子で。まったく、どんな趣味してんのよ、コンピ研の部長は)
と、ここで、谷口の目にコンピ研の窓に貼られた何かが入ってきた。
「うん?何これ?」
谷口はそれに顔を近づける。それは紙のようで「ここがSOS団の部室です」と書かれていた。
「まぁた、涼宮がアホなことしたのね。こんなの貼り付けて何がしたいのかさっぱりわかんないわ。また明日にでもキョン子に電話して訊いてやろうっと」
谷口は表情を呆れから真剣なものに変えると、
「よしっ!行くわよっ!」
・・・さて、どうするかね。コンピ研に隠れてサンタの張り込みなんて馬鹿げたことだと思うが、SOS団団長殿はそうは思わないらしい。もしサンタが来たら、あたしはハルヒコなんかに知らせずにそのまま丁重にお断りして帰ってもらうけどね(まぁサインくらいは貰っておこう)。大体サンタなんて人物が存在するはずないと思うのだが、そこにハルヒコの力が働いているかも知れないので油断はできないのである。まったく、迷惑を絵に描いたような奴だな。
あたしは妙な形に穴を繰り抜かれたカボチャを被ったまま辺りを見渡した。何台もあるパソコンは電源も入っていないのにフィィンと耳障りな音を立てていた。背筋がぞくりとする。あたしはすぐさま隣の部屋にいるハルヒコたちのことを思い浮かべた。
隣ではハルヒコたちがクリスマスパーティをやっている。時折、朝比奈先輩の叫び声や鶴屋先輩の笑い声が聞こえてくるからきっと楽しいんだろうな。あたしが例の坂道を往復して運んできた電気ストーブがある部屋でぬくぬくとしながらうまいもんでも食べてるに違いない。こんちくしょー。何であたしだけこんな扱いなんだよ。あたしだってみんなと一緒にクリスマスパーティしたいってのに。あのバカハルヒコめ。覚えてろよ。
そんなことを考えているうちに寒さにも慣れ、だんだん眠くなってきた。ここに来て何分ぐらいたったのか知りたいよ。もしかして、もう一時間ぐらいこの状態なんじゃないか?うっ・・軽く泣けてくるぞ。
「クリスマスにこんなことしてる女子高生、日本中探してもあたしだけだよ」
そう呟いて、ふと頭にある男子高校生の顔がよぎる。命がけで助けてくれた自分と同じような名前の彼は、今どうしているのだろうか?まさか彼も同じような目に遭っているのか?おそらく・・・そうだな。
「やれやれ」
溜息を漏らす。と、その時。
カタンッ。
思わず声を上げそうになるが自分の口を押さえて声を出さずに済んだ。まだ心臓がバクバク鳴っているのが聞こえる。何だ?掃除用具入れの箒が傾いたのか?本当にサンタが来たんじゃないだろうな・・・。
あたしが目を見開いたままじっとしていると、
「もぅっ・・!真っ暗で全然見えないわね!電気でもつけようかしら・・?」
「・・・・っ!?」
え、ちょっ、タイム!ターイム!脳内会議だ脳内会議!
おいおい、マジなのか・・・?ホントにサンタが来たのかっ?コンピ研に?それともSOS団の部室という張り紙に誘導されて来たのか?どっちにしてもヤベェぞこりゃ・・・。って、だんだんあたし、キョンの口調になってきてないか?いやまぁ、あたしも『キョン』なんだけどさ。
あたしの頭の中での意見がまとまらないうちに蛍光灯の光があたしの視界を奪った。しばらく白一色だった風景が元の何台ものパソコンが置かれているという見覚えのあるものに変わっていく。と、思ったら、白い髭をつけた男か女かもわからないような人物の顔が視界いっぱいに広がった。
「うわああぁぁぁっ!!!」
あたしが叫ぶとサンタ(らしき人物)も叫び、目からぽろぽろと涙を零した。体はガタガタ震えている。震えて泣きたいのはこっちだよ。
「なっ・・・・」
「・・・?」
「何よこれええええぇぇぇぇぇっっっ!!!!!!?????」
どこかで聞いたことがある女の声があたしの鼓膜をビリビリと振動させた。なんつー声のでかさだ。谷口のアホに匹敵するほどの声のでかさだな。
あたしが呑気にそんなことを考えていると、廊下でロードローラーが通っているんじゃないかと思うぐらいの轟音がして、勢いよくコンピ研の扉が開いた。
「何事だっ!?」
扉を開けたのはサンタが存在することを世界で一番望んでいるだろうハルヒコだった。その後ろには驚愕の表情をした一姫、唖然とした朝比奈先輩、無表情の長門、なぜかフォークを咥えたままニヤニヤしている鶴屋先輩がいる。
ハルヒコは一瞬あたしを見て、それから―――涙目になっている女サンタに視線を固定する。その眼にはオリオン座流星群が流れているかのように好奇心に満ち溢れていた。サンタが「や、やば・・・」と小さくつぶやくと同時に、
「サンタだ――――っ!!!」
ハルヒコがクリスマスにサンタにお願いしていたオモチャをプレゼントされた子供のような歓声を上げた。その声は多分地球だけではなく冥王星辺りまで響いたことだろう。まだ職員室にいる教師どもが駆けつけてくるかと思ったが、幸いそれはなかった。教師どもがここにくるのは少しばかり厄介なことになりそうだからである。あたし達がこんな遅くまで学校に残ってわいわい騒いでいるというのがバレるのもマズイのだが、それよりこの後起こったことを見られたら、次の日の北高の校門前には砂糖に集るアリのごとくマスコミが殺到するだろうからな。
もう一つの厄介なこと、それは―――。
「うっ・・・!?が・・・ぁ・・・!」
突然サンタが胸をギュッと掴んで呻き始めた。メキメキと床が軋む音が部屋に木霊する。
「な、に・・・よっ・・・これっ・・・・・!?ぅ、うがぁっ!」
女とは思えないような声を出しながらサンタは巨大化し始めた。最終的な大きさは部屋の天井に頭がつくぐらい・・・って、こんなに呑気に説明してる場合じゃないぞ!『本気』と書いて『マジ』で怖いっ・・!
「おおっ!!すげぇっ!すげぇぞキョン子ぉ!」
ハルヒコだけがやたらと元気にはしゃいでいる。何がすごいのかさっぱり解らん!それよりさっさと逃げなきゃヤバいだろ!完璧襲われるぞ!?
そう思った瞬間、サンタがバスケットボール二個分ぐらいの面積がある掌で机に並べて置かれているパソコンを叩き潰した。それはあたし達を挑発しているようにも見える。だが、こんな挑発(?)にのるほどハルヒコもそこまで考えなしで直情的な奴ではないと思うね。あたしはこいつを信じるぞ。
「何だアイツ。俺にケンカ売ってんのか?なんか腹立つな」
早くも前言撤回。待て待て。
「す、ストップ!ハルヒコ!」
「何だよ?あ、もしかしてあのサンタ、お前の知り合いなのか?」
んなわけないだろ。
「そうじゃなくてだな、お前はバカか!?あんな化け物の挑発になんかのるなよ!あんなヤツに勝てる訳ないだろっ!?」
「そんなのまだ解んねえだろ。こっちには有紀も鶴屋先輩もいるんだぞ?この二人がいればどんな奴だって勝てるんだよ。俺が勝てるって言うんだから勝てる」
その自信はどこで生産されているのかぜひとも教えてほしいものだが、今はそんな場合ではないのだ。
「と、いうことで有紀!鶴屋先輩!サンタを捕獲するぞ!」
ハルヒコが鶴屋さんと長門を振り返る。長門は「了解した」と短く答え、鶴屋さんは「捕獲は難しいさ〜っ」と咥えていたフォークを構えた。マズイぞ・・・。このままだと長門はともかく鶴屋先輩とハルヒコが怪我することになる。いや、最悪の場合、死ぬ可能性だって・・・・。
その時のあたしはよほど心配そうな顔をしていたんだろう、一姫が微笑しながらあたしの肩を叩いた。
「大丈夫ですよ。長門さんはもちろん、鶴屋さんもハルヒコさんもそう簡単には負けないでしょう。それに・・・」
それに?
「・・・いえ、何でもありませんよ。ただの独り言です」
なんだ気持ち悪い。言いたいことがあるならさっさと言え。
「ええ・・・。それでは言わせていただきます。これはボクの推測にすぎないのですが、おそらく元となったサンタ―――いえ、サンタの恰好をした偽物はあなたのご友人の谷口さんだと思うので心配はいらないでしょう」
何だって?谷口だと?
「そうです。その谷口さんがなぜあんな姿になったかと言いますと、あの巨大で剛腕な姿がハルヒコさんが思い描いたサンタなんだと思います。それがハルヒコさんの例の力で谷口さんの体に影響を及ぼしたのではないのでしょうか」
なるほどね。結局はハルヒコの仕業か。
「で?どうすれば谷口は元に戻るんだ?」
あたしの質問に一姫は聡明そうな顔をしかめて、
「ボクが思うにはハルヒコさんがサンタ以外のものに興味を向ける、もしくはサンタのことを諦めるのどちらかをすればいいのでしょうが・・・」
「ハルヒコのヤツがそう簡単に諦めたり別のものに気がいくなんてことにはならないだろうな」
「その通りです」
一姫が苦笑しながら肩をすくめた。あたしは活動の鈍い頭をフル回転させて考える。
ハルヒコがこの非現実的な状況下で他のものに興味を向けるのはまずありえない。となると、あの巨大サンタ―――じゃなかった、谷口のことを諦めさせるしかない。だがどうすりゃいい?あたしや一姫が捕まえるのは無理だから諦めろなんて言っても無駄なことはやらなくても解る。くそっ、何かいい方法は―――。
「あっ・・・」
この間抜けな声を出したのはもちろんあたしだ。そうだ、いい方法があるじゃないか。一番てっとり早くて谷口のことを諦めさせる方法が。
「長門!鶴屋先輩!」
あたしは二人には聞こえるように、しかしハルヒコには聞こえないくらいの音量で頼もしい味方を名前を呼んだ。すぐに二人があたしのもとに駆け寄ってくる。あたしがいつも通りの表情の長門と不思議そうな顔をした鶴屋先輩に思いついた作戦を説明すると、長門は「・・・そう」と了承(?)し、鶴屋先輩は苦笑しながら「はるやんには悪ぃけど、俺はキョン子ちゃんの頼みの方を優先させてもらおっかな!」と言ってくれた。二人とも素直な人でよかったよ。
早速あたし発案の谷口を元に戻す作戦が実行された。その作戦の内容を簡単にまとめるとこうなる。
サンタもとい谷口を逃がす。以上。
こうすれば異常な執着心を持つハルヒコだって諦めるだろう。正体が谷口だって知ればどうなるかは知らんが。
「有紀〜!左足の脛を蹴れ〜!」
ハルヒコが長門に指示しているのが聞こえる。心配になって長門の方を見てみると、長門はハルヒコの声が聞こえていないフリをしていた。ハルヒコはそれでも構わずに長門に何やら言っていたが、長門が指示どおりに動かないと解ると、今度は鶴屋先輩に指示を出し始めた。もちろん鶴屋さんも知らんぷり。
「もうっ、何なんだよ!有紀も鶴屋先輩も俺のこと無視しやがって!」
ハルヒコは太平洋戦争でアメリカ軍に敗れた日本軍兵士のような顔をして言った。ハルヒコ総司令官には悪いが、ここだけは譲れないんでね。下級兵士のあたしが仕切らせていただきますよ。
「ぅ・・・うぐがぁっ!」
谷口が熊のように唸りながら窓をぶち破り外へ飛び出していく。その後を長門と鶴屋先輩が追いかけるように窓から飛び降りた。あれ?ここ三階じゃなかったっけ?
「どうやらグラウンドの方に逃げたみたいだな!みんな追いかけて有紀と鶴屋先輩を援護するぞ!」
援護ったって、お前はできるだろうけど、ガタガタ震えてる朝比奈先輩と一般の女子部員(一姫は一応)にどう援護しろって言うんだ。追いかけまわせとか言うなよ。
あたし達が慌ただしくグラウンドに出るのと、巨大化した谷口サンタが野球部のホームラン防止ネットを乗り越えて逃走するのが同時だった。ハルヒコが慌てて、
「おい!こら!待てえ――――っ!!!」
と叫ぶがもう遅い。谷口はすでに暗闇の中に消えてしまった後だった。そういえば谷口の頭に赤い帽子がなかったような気がするが気のせいかね。
あたしがハルヒコが地団駄を踏んでいるのを見ていると、誰かがあたしの肩をひかえめに叩いた。振り返ると無表情の長門。
「どうした?」
「彼女の身体的異常の修正について報告することがある」
何だ?何か問題があったのか?
「あなたが考えていると思われる『彼女を逃がすことで身体的異常を修正できる』というのは間違い」
「・・・っ!」
一姫め。嘘をつきやがったな。
「嘘ではない。古泉一姫は誤認していただけ」
「・・・」
あたしは黙り込む。一姫は勘違いしていたのだとは長門が『間違い』と言った瞬間に気づいたのだが、それでもあたしがバカな頭をフル回転させた分の労力を考えると腹が立つ。また今度何か奢らせてやることにしよう。
長門は黒曜石のような瞳であたしの顔を見ながら、
「心配ない。逃がす前にナノマシンを注入して身体的異常を修正しておいた」
朝比奈先輩、あたしと来て、今度は谷口に噛みついたのか。
「そう」
長門は短く答えてからブレザーの内ポケットを探り出した。何を取り出すのか見ていると、ブレザーから抜き出された右手にはサンタが被っているような赤い帽子が握られていた。
「これ」
そう言って長門はそれをあたしに被せる。あたしはじっと長門の顔を見てから、
「これどうしたんだ?」
「拾った」
拾った、ね。なるほど。どうりで谷口が被ってなかったわけだ。
「うう〜〜〜っ!!サンタカムバ―――ック!!!」
ハルヒコの未練たらたらの叫び声がグラウンド中に響き渡った。
さて、ちなみに。
次の日、谷口がぐちゃぐちゃにしたコンピ研部室では。
「うわああああああんっ!!ボクのっ・・・ボクのパソコンがあああああっっ!!!」
というコンピ研部長の悲痛な叫びがSOS団アジトまで聞こえてきていたのは言うまでもない。
☆おしまい☆
それは雪がしんしんと降る、ある十二月下旬のことだった。
学校が冬休みでも関係なく団活があるSOS団なので、このクソ寒い中わざわざ学校に登校して部室でぬくぬくと過ごしていたあたしはこのまま死んでもいいというぐらいの気持ちでうとうとしていたのだが、その気持ちは問題児・涼宮ハルヒコによってブラックホールが発生しているあたりまで光速で吹っ飛んでいってしまった。まあ、そんなことも今となっては日常茶飯事だったのだが、まさかあたしだけあんな扱いになるとは思ってなかったぞ、ハルヒコよ。
「今日はクリスマスパーティをするぞーっ!」
いきなりドアを蹴破って登場したハルヒコの第一声はそれだった。ハルヒコがわけのわからないことを叫びながら入ってくるのはいつものことなのでその辺はスルーである。
普段ならあたしが呆れつつ理由を問うのだが、今日ばかりは寒くてそんな体力すらない。あたしは四季の中で冬が一番嫌いだからな。寒い季節は秋だけで十分さ。ちなみに、あたし以外にハルヒコの言葉に対して不平不満を言う奴はいない。長門はあたしがプレゼントしたウサギのヘッドホンをつけて乙ゲーに夢中だし、朝比奈先輩はメイド服姿で嬉しそうに手を叩いてるし、一姫はニコニコ微笑んでるだけだ。
てなわけで、ハルヒコ発案の謎のクリスマスパーティはあっさり始められる―――はずだった。
「こんのバカキョン子があああぁぁぁっ!!」
「痛ぁぁっ!!??」
何でか知らんが突然殴られた。
「バカはどっちだ、この野郎!思いっきり殴りやがってぇ・・・。いきなり何なんだよ!」
あたしが睨みつけると、ハルヒコは両腕を大きく振り上げて、
「あのなぁ、そんな軽いテンションでやってたらヤツらに簡単に殺られちまうぞっ!!」
ヤツらって誰だあああっ!!
あたしは殴られた頬をさすりながら立ち上がると、あたしを見ておろおろしている朝比奈先輩に「大丈夫ですよ」と言っておいてから、心の中で叫んだ言葉を口にした。
「で、ヤツらって一体誰なんだ?」
「そんなことも解らないのか?まったくしょうがねえな。これだからいつまでたっても平団員なんだよ」
そうかい。あたしはこのままずっと平団員で結構さ。
「ふーん。ま、いいけどよ」
いいのか。
「仕方ねえから、この物分かりがよくないキョン子のために説明してやろう!」
そう言うとハルヒコはいつになく真剣な顔で語り始めた。
「ヤツらはこの時期になると必ず現れ、山のようなプレゼントを担いだまま軽々と屋根から屋根へ飛び移り、その家々に侵入するが、決して誰一人として見たことがないという謎の集団・・・・。おそらくヤツらは諜報活動を主とした極秘の組織集団なんだ・・・」
あたしは嘆息しながら、ふと横目で一姫たちを見た。なんと、一姫や朝比奈先輩はものすごく真剣な面持ちでハルヒコのアホな話を聞いていた。一姫や朝比奈先輩だけではない。長門までゲームを中止して聞き入っている。意味が解らんぞ・・。何でこいつらはこんなに真剣に聞いてるんだ?はっきり言ってこいつが言っている奴らというのはだな・・・・。
「人の話を聞けえええぇぇっ!!!」
「うぎゃあああっ!」
今度はポニーテールを思いっきり引っ張られた。さすがにこれは涙目になる。
「俺の話を聞いてるのか!?ったく、団長より先に話のオチを言うなんて言語道断だぞ!」
「うるせえ!つーか、何であたしがそいつらの正体を言おうとしたこと知ってんだ!これはあたしのモノローグだから口には出してないんだぞ!それ以前に、あたしがそれを言おうとしたってことはお前の話をちゃんと聞いてたってことじゃないのか!?」
「そう!その集団とはつまりサンタなんだよ!」
「無視すんな!」
相変わらず自分勝手な奴だ。自分に都合の悪いことはすぐに抜けていくらしい。
「即ちっ!」
ハルヒコが喚きながら机を叩いた。お前の馬鹿力だと机が壊れるのもありえなくもないからやめろ。
「今年発足した我がSOS団を危険視し、ヤツらが襲いかかってくるかもしれねえんだよっ!!」
「それは大変なことになりましたねえー」
「・・・ユニーク」
「ぼ、僕たち食べられるんですかぁ?」
ハルヒコの九割が被害妄想の発言にSOS団団員が各々の反応を見せた。ちなみに言ったのは一姫、長門、朝比奈先輩の順番だ。あたし?あたしは呆れて何も言えなかったよ。
ハルヒコはあたし達の反応が気に入ったのか手下を手に入れたガキ大将のような笑みを浮かべて、
「だから、今のうちに綿密な作戦を立てておいて、サンタという脅威に立ち向かうんだよ!」
何だか聞いてるこっちがアホらしくなってきたぞ。
「そんで、これがその素晴らしい作戦!もちろんこれを考えたのは俺だ!」
何やら得意げな顔のハルヒコはどこに隠し持っていたのか知らないが、机の上に『THE☆作戦』と書かれたフリップを置いた。そのフリップに書かれていたハルヒコ曰く素晴らしい作戦というのは以下のようなものだった。
まず、お隣さんのコンピュータ研究部(コンピ研)の窓にSOS団と書いた張り紙を張り付けて、そこをSOS団の部室と思わせる。
次にそのコンピ研の部室にあたしが待機して、ターゲットのサンタが部室内に入ってきたらハルヒコたちに連絡する。
あたしがサンタを監視している間、ハルヒコとその他諸々は本物のSOS団部室でクリスマスパーティをやる。ハルヒコが言うには一番敵に見つかりやすい役割で、それに選ばれなかったあたしは幸せな人らしい。
おい、この作戦明らかにおかしいだろ。はっきり言ってあたしはこの作戦に猛反対だ。だが、ハルヒコはあたしが反対するのを予測済みで、
「以上だ!異論があるならキョン子以外で頼むぜ!」
と言いやがったのである。アイツ、あたしにツッこむ隙も与えない気だな。
あたしが少し憂鬱になっていると、唐突にドアが勢いよく開いた。元気よくSOS団の部室にやってくる人物と言えばあの人しかいない。
「やーやー♪はるやんの頼みで俺も参加することになったにょろ〜っ」
ハルヒコと同じ百ワットの笑顔で入ってきたのは、朝比奈先輩と同じクラスのSOS団名誉顧問の鶴屋先輩だった。鶴屋先輩を見たハルヒコはさらに笑顔になる。
「わざわざすまないな鶴屋先輩!なんか鶴屋先輩がいてくれると心強いんだよ!」
「可愛い後輩の頼みだっ、断るわけないだろっ。それにここって、いっつもおもしろいことやってるからさっ、俺も参加したいんだよねっ」
鶴屋先輩、全然おもしろいことじゃありませんよ。あたしにとっては厄介なことです。
「あのぉ、鶴屋くんは涼宮くんに何て頼まれたんですか?」
「いいこときいてくれたね、みつるっ。それは、」
鶴屋先輩が言いかけると、ハルヒコが慌ててそれを制した。
「それは俺が言うぜ。鶴屋先輩は主にサンタとの戦闘の際に働いてもらうつもりだ!」
ちょっと待て!サンタと戦うのか!?
「当たり前だろ。何言ってんだよキョン子。サンタという脅威を取り除くにはバトって何とかするしかないんだ。今どきのサンタは話し合いではどうにもできねえんだからな!」
お前はサンタの一体何を知ってるんだ!
「フフフ・・・。それは秘密ということにしといてくれ」
ハルヒコはニヤリと笑った。もうどうでもいいよ。好きにしてくれ。
それにしても鶴屋先輩がサンタとまともに戦えるとは思えん。鶴屋先輩は普通の高校生で、相手は得体の知れない何かだ。本当に勝てるのか?大体、サンタなんているのか?
「その辺は大丈夫だよっ、キョン子ちゃん」
はぁ。どの辺が大丈夫なんですか?
「実は俺は鶴屋流古武術を弱冠十九歳の若さで免許皆伝する予定なんだよっ!」
予定!?未来形なんですか!?
「それにその古武術でサンタと戦った時もあるさねっ!」
サンタと!?さすがにそれはちょっと・・・。
「んん〜?キョン子ちゃん、その顔は信じてない顔だねっ?」
そんな嘘みたいな話、信じられませんよ。それにサンタは空想の人物でしょう?実際にはいないんじゃ?
「それがいるんだよっ!サンタっ!その時の写真がこれさっ!」
そう言って鶴屋先輩が差し出したのは一枚の写真だった。そこには妙なポーズをした鶴屋先輩と、
「うわあ〜、本物のサンタさんですねぇ」
あたしの後ろから写真を覗いていた朝比奈先輩が歓声を上げた。なんとそこに映っていたのは鶴屋先輩と、熊のようにでかいサンタらしき人物だったのである。
「これは・・・」
あたしは写真とそれから朝比奈先輩を見てから、何とも言えない気分になる。ううむ、どう返せばいいんだ?
「鶴屋くん、すごいですねぇ」
朝比奈先輩が柔らかく微笑みながら手を叩いた。鶴屋先輩は「だろ〜?」とニコニコしている。
「あの、鶴屋先輩。これってホントに、」
「キョン子ちゃんも褒めてくれなくてもいいさっ!照れるよっ!」
だめだこりゃ。話聞いてない。
密かに溜息を漏らすあたしだった。
他にも何やらごちゃごちゃあったのだが、それはまぁともかく、あたしとハルヒコはサンタの見張り役をする人物―――つまりあたし―――の隠れる場所を探しにコンピ研の部室に足を踏み入れたわけだが・・。
「おい、何やってんだハルヒコ」
窓に何か張り付けている様子のハルヒコの脇腹を小突く。
「何ってお前、ここをSOS団の部室だと思わせるために紙を貼ってんだよ」
「紙?」
外に身を乗り出して窓を見る。そこには『ここがSOS団の部室です』と書かれた紙が貼られていた。こんなもんでサンタを誘導できるのか?
「これでよしっと。そんで後はキョン子が隠れる場所なんだが・・・」
ハルヒコは部室内をぐるりと見回して、
「おっ」
と、小さく声をあげて顔をほころばせた。あたしはハルヒコの視線が固定されているそれに目をやる。
そこにあったのは、いつの日かにやった誰が見ても「おかしい」と言えるハロウィンの時にハルヒコと鶴屋先輩が作成した謎のカボチャ男だった。ボロボロのマントとカボチャを被っているのはハルヒコがどこかからガメてきた人体模型で、カボチャに空けられた穴から無駄にリアルな目がこちらを見ている。
「って、ちょっと待て。まさかあれに隠れろとか言うんじゃないよな・・?」
「さぁ隠れろ、キョン子!」
「よし、全力で拒否する!つーか人の話聞いてた!?」
「もちろんだ!俺はキョン子はここに隠れたいって言ったから言ったんだぞ?はぁ・・・。キョン子、我が儘はダメだぞ」
「誰もそんなこと言ってないんだけど!?」
「うっせえなぁ。お前がこれに隠れることを拒否するなら、俺は拒否することを拒否する!」
「ちょ、ひどくないか!?」
騒ぐあたしを無視して、ハルヒコは人体模型からカボチャを奪い取ると、あたしに被せようとしてきた。
「まぁまぁ、案外似合うかもしれねえぞ?だからほら、ユー被っちゃいなよ〜」
うわぁ何だこいつ、マジでウザい。
あたしはハルヒコのキラキラした目を見ているうちに被ってやってもいいかという甘い考えが頭に過ぎり、ハルヒコからカボチャを受け取って被った。この優しさには我ながら感心するよ。こんなんだから、あたしは良いようにされるんだな。いや、別にこれぐらいだったらまぁいいか。
という考えは本当に甘すぎたらしい。あたしがカボチャを被った瞬間、
「ぷっ・・、くははっ・・!あ―――っはっはっはっはっは!!あはっあはははははっ、あははっ、は――っはっはっは!ひ――、くるし―――っ!!お前最っ高!マジで傑作だなっ!あっははははっ!!」
ここまでこいつに殺意が湧くとは思ってなかったぞ。おい、本気で殴っていいか?
それからハルヒコはしばらくの間、床の上を転げ回っていた。
ところ変わって北高旧館前。そこにコソコソ動き回っている人物が一人いた。
その人物は校舎の壁に張り付くと、ほっと息をついた。
「ふうっ。なんとかここまで来れたわね。だれにも見つからないようにするのって結構大変だわ」
赤い服に赤い帽子、白いつけ髭をつけたサンタにしか見えない恰好をしたその人物は谷口である。谷口は小脇にカッパのミイラ(偽物)を抱えたまま再び動き出した。
(もう、いい加減にしなさいよぉ・・。いつまでこのカッパネタ引っ張ってると思ってんの?もう結構経つわよ・・・)
谷口はぶつぶつ呟きながら壁を伝って走る。
(早いとこカッパ返さなきゃなんないわ。コンピ研の連中、あたしがこれを盗んだって知らないから、わざわざこんなことして返さなきゃなんないのは辛いわね。どれもこれも・・・み〜んな涼宮のせいよぉっ!)
谷口は半泣きになりつつ非常階段を上る。そしてコンピ研の部室の窓に手をかけ、ちらりとその隣の窓を見た。その部屋には明かりがついていて、中から何やら騒ぎ声が聞こえる。ちなみに言うと、そこはSOS団の部室である。
(ったく、何でアホの涼宮が残ってんのよ!涼宮がいるってことはキョン子とその他のヤツらもいるってことね!まぁいいわ。もとよりそんなリスクがあることなんて合点承知の助。もし見つかったとしても怪しまれることなんてないわ。なんたって今日はこの恰好がピッタリ合う絶好のイベントデ―なんだから!)
谷口は視線をSOS団の窓から自分が来ている服に移した。先ほども述べたように、今の谷口の恰好はどこからどうみてもサンタだ。これならハルヒコたちに見つかったとしても何ともない!というのが谷口の考えなのだが、これはどっちかと言えばハルヒコたちに捕まる恰好である。だがそんなことを知らない谷口はニヤリと笑った。
(ていうかホントにカッパいらないんだけど。こんなもの欲しい人なんているのね、しかも女子で。まったく、どんな趣味してんのよ、コンピ研の部長は)
と、ここで、谷口の目にコンピ研の窓に貼られた何かが入ってきた。
「うん?何これ?」
谷口はそれに顔を近づける。それは紙のようで「ここがSOS団の部室です」と書かれていた。
「まぁた、涼宮がアホなことしたのね。こんなの貼り付けて何がしたいのかさっぱりわかんないわ。また明日にでもキョン子に電話して訊いてやろうっと」
谷口は表情を呆れから真剣なものに変えると、
「よしっ!行くわよっ!」
・・・さて、どうするかね。コンピ研に隠れてサンタの張り込みなんて馬鹿げたことだと思うが、SOS団団長殿はそうは思わないらしい。もしサンタが来たら、あたしはハルヒコなんかに知らせずにそのまま丁重にお断りして帰ってもらうけどね(まぁサインくらいは貰っておこう)。大体サンタなんて人物が存在するはずないと思うのだが、そこにハルヒコの力が働いているかも知れないので油断はできないのである。まったく、迷惑を絵に描いたような奴だな。
あたしは妙な形に穴を繰り抜かれたカボチャを被ったまま辺りを見渡した。何台もあるパソコンは電源も入っていないのにフィィンと耳障りな音を立てていた。背筋がぞくりとする。あたしはすぐさま隣の部屋にいるハルヒコたちのことを思い浮かべた。
隣ではハルヒコたちがクリスマスパーティをやっている。時折、朝比奈先輩の叫び声や鶴屋先輩の笑い声が聞こえてくるからきっと楽しいんだろうな。あたしが例の坂道を往復して運んできた電気ストーブがある部屋でぬくぬくとしながらうまいもんでも食べてるに違いない。こんちくしょー。何であたしだけこんな扱いなんだよ。あたしだってみんなと一緒にクリスマスパーティしたいってのに。あのバカハルヒコめ。覚えてろよ。
そんなことを考えているうちに寒さにも慣れ、だんだん眠くなってきた。ここに来て何分ぐらいたったのか知りたいよ。もしかして、もう一時間ぐらいこの状態なんじゃないか?うっ・・軽く泣けてくるぞ。
「クリスマスにこんなことしてる女子高生、日本中探してもあたしだけだよ」
そう呟いて、ふと頭にある男子高校生の顔がよぎる。命がけで助けてくれた自分と同じような名前の彼は、今どうしているのだろうか?まさか彼も同じような目に遭っているのか?おそらく・・・そうだな。
「やれやれ」
溜息を漏らす。と、その時。
カタンッ。
思わず声を上げそうになるが自分の口を押さえて声を出さずに済んだ。まだ心臓がバクバク鳴っているのが聞こえる。何だ?掃除用具入れの箒が傾いたのか?本当にサンタが来たんじゃないだろうな・・・。
あたしが目を見開いたままじっとしていると、
「もぅっ・・!真っ暗で全然見えないわね!電気でもつけようかしら・・?」
「・・・・っ!?」
え、ちょっ、タイム!ターイム!脳内会議だ脳内会議!
おいおい、マジなのか・・・?ホントにサンタが来たのかっ?コンピ研に?それともSOS団の部室という張り紙に誘導されて来たのか?どっちにしてもヤベェぞこりゃ・・・。って、だんだんあたし、キョンの口調になってきてないか?いやまぁ、あたしも『キョン』なんだけどさ。
あたしの頭の中での意見がまとまらないうちに蛍光灯の光があたしの視界を奪った。しばらく白一色だった風景が元の何台ものパソコンが置かれているという見覚えのあるものに変わっていく。と、思ったら、白い髭をつけた男か女かもわからないような人物の顔が視界いっぱいに広がった。
「うわああぁぁぁっ!!!」
あたしが叫ぶとサンタ(らしき人物)も叫び、目からぽろぽろと涙を零した。体はガタガタ震えている。震えて泣きたいのはこっちだよ。
「なっ・・・・」
「・・・?」
「何よこれええええぇぇぇぇぇっっっ!!!!!!?????」
どこかで聞いたことがある女の声があたしの鼓膜をビリビリと振動させた。なんつー声のでかさだ。谷口のアホに匹敵するほどの声のでかさだな。
あたしが呑気にそんなことを考えていると、廊下でロードローラーが通っているんじゃないかと思うぐらいの轟音がして、勢いよくコンピ研の扉が開いた。
「何事だっ!?」
扉を開けたのはサンタが存在することを世界で一番望んでいるだろうハルヒコだった。その後ろには驚愕の表情をした一姫、唖然とした朝比奈先輩、無表情の長門、なぜかフォークを咥えたままニヤニヤしている鶴屋先輩がいる。
ハルヒコは一瞬あたしを見て、それから―――涙目になっている女サンタに視線を固定する。その眼にはオリオン座流星群が流れているかのように好奇心に満ち溢れていた。サンタが「や、やば・・・」と小さくつぶやくと同時に、
「サンタだ――――っ!!!」
ハルヒコがクリスマスにサンタにお願いしていたオモチャをプレゼントされた子供のような歓声を上げた。その声は多分地球だけではなく冥王星辺りまで響いたことだろう。まだ職員室にいる教師どもが駆けつけてくるかと思ったが、幸いそれはなかった。教師どもがここにくるのは少しばかり厄介なことになりそうだからである。あたし達がこんな遅くまで学校に残ってわいわい騒いでいるというのがバレるのもマズイのだが、それよりこの後起こったことを見られたら、次の日の北高の校門前には砂糖に集るアリのごとくマスコミが殺到するだろうからな。
もう一つの厄介なこと、それは―――。
「うっ・・・!?が・・・ぁ・・・!」
突然サンタが胸をギュッと掴んで呻き始めた。メキメキと床が軋む音が部屋に木霊する。
「な、に・・・よっ・・・これっ・・・・・!?ぅ、うがぁっ!」
女とは思えないような声を出しながらサンタは巨大化し始めた。最終的な大きさは部屋の天井に頭がつくぐらい・・・って、こんなに呑気に説明してる場合じゃないぞ!『本気』と書いて『マジ』で怖いっ・・!
「おおっ!!すげぇっ!すげぇぞキョン子ぉ!」
ハルヒコだけがやたらと元気にはしゃいでいる。何がすごいのかさっぱり解らん!それよりさっさと逃げなきゃヤバいだろ!完璧襲われるぞ!?
そう思った瞬間、サンタがバスケットボール二個分ぐらいの面積がある掌で机に並べて置かれているパソコンを叩き潰した。それはあたし達を挑発しているようにも見える。だが、こんな挑発(?)にのるほどハルヒコもそこまで考えなしで直情的な奴ではないと思うね。あたしはこいつを信じるぞ。
「何だアイツ。俺にケンカ売ってんのか?なんか腹立つな」
早くも前言撤回。待て待て。
「す、ストップ!ハルヒコ!」
「何だよ?あ、もしかしてあのサンタ、お前の知り合いなのか?」
んなわけないだろ。
「そうじゃなくてだな、お前はバカか!?あんな化け物の挑発になんかのるなよ!あんなヤツに勝てる訳ないだろっ!?」
「そんなのまだ解んねえだろ。こっちには有紀も鶴屋先輩もいるんだぞ?この二人がいればどんな奴だって勝てるんだよ。俺が勝てるって言うんだから勝てる」
その自信はどこで生産されているのかぜひとも教えてほしいものだが、今はそんな場合ではないのだ。
「と、いうことで有紀!鶴屋先輩!サンタを捕獲するぞ!」
ハルヒコが鶴屋さんと長門を振り返る。長門は「了解した」と短く答え、鶴屋さんは「捕獲は難しいさ〜っ」と咥えていたフォークを構えた。マズイぞ・・・。このままだと長門はともかく鶴屋先輩とハルヒコが怪我することになる。いや、最悪の場合、死ぬ可能性だって・・・・。
その時のあたしはよほど心配そうな顔をしていたんだろう、一姫が微笑しながらあたしの肩を叩いた。
「大丈夫ですよ。長門さんはもちろん、鶴屋さんもハルヒコさんもそう簡単には負けないでしょう。それに・・・」
それに?
「・・・いえ、何でもありませんよ。ただの独り言です」
なんだ気持ち悪い。言いたいことがあるならさっさと言え。
「ええ・・・。それでは言わせていただきます。これはボクの推測にすぎないのですが、おそらく元となったサンタ―――いえ、サンタの恰好をした偽物はあなたのご友人の谷口さんだと思うので心配はいらないでしょう」
何だって?谷口だと?
「そうです。その谷口さんがなぜあんな姿になったかと言いますと、あの巨大で剛腕な姿がハルヒコさんが思い描いたサンタなんだと思います。それがハルヒコさんの例の力で谷口さんの体に影響を及ぼしたのではないのでしょうか」
なるほどね。結局はハルヒコの仕業か。
「で?どうすれば谷口は元に戻るんだ?」
あたしの質問に一姫は聡明そうな顔をしかめて、
「ボクが思うにはハルヒコさんがサンタ以外のものに興味を向ける、もしくはサンタのことを諦めるのどちらかをすればいいのでしょうが・・・」
「ハルヒコのヤツがそう簡単に諦めたり別のものに気がいくなんてことにはならないだろうな」
「その通りです」
一姫が苦笑しながら肩をすくめた。あたしは活動の鈍い頭をフル回転させて考える。
ハルヒコがこの非現実的な状況下で他のものに興味を向けるのはまずありえない。となると、あの巨大サンタ―――じゃなかった、谷口のことを諦めさせるしかない。だがどうすりゃいい?あたしや一姫が捕まえるのは無理だから諦めろなんて言っても無駄なことはやらなくても解る。くそっ、何かいい方法は―――。
「あっ・・・」
この間抜けな声を出したのはもちろんあたしだ。そうだ、いい方法があるじゃないか。一番てっとり早くて谷口のことを諦めさせる方法が。
「長門!鶴屋先輩!」
あたしは二人には聞こえるように、しかしハルヒコには聞こえないくらいの音量で頼もしい味方を名前を呼んだ。すぐに二人があたしのもとに駆け寄ってくる。あたしがいつも通りの表情の長門と不思議そうな顔をした鶴屋先輩に思いついた作戦を説明すると、長門は「・・・そう」と了承(?)し、鶴屋先輩は苦笑しながら「はるやんには悪ぃけど、俺はキョン子ちゃんの頼みの方を優先させてもらおっかな!」と言ってくれた。二人とも素直な人でよかったよ。
早速あたし発案の谷口を元に戻す作戦が実行された。その作戦の内容を簡単にまとめるとこうなる。
サンタもとい谷口を逃がす。以上。
こうすれば異常な執着心を持つハルヒコだって諦めるだろう。正体が谷口だって知ればどうなるかは知らんが。
「有紀〜!左足の脛を蹴れ〜!」
ハルヒコが長門に指示しているのが聞こえる。心配になって長門の方を見てみると、長門はハルヒコの声が聞こえていないフリをしていた。ハルヒコはそれでも構わずに長門に何やら言っていたが、長門が指示どおりに動かないと解ると、今度は鶴屋先輩に指示を出し始めた。もちろん鶴屋さんも知らんぷり。
「もうっ、何なんだよ!有紀も鶴屋先輩も俺のこと無視しやがって!」
ハルヒコは太平洋戦争でアメリカ軍に敗れた日本軍兵士のような顔をして言った。ハルヒコ総司令官には悪いが、ここだけは譲れないんでね。下級兵士のあたしが仕切らせていただきますよ。
「ぅ・・・うぐがぁっ!」
谷口が熊のように唸りながら窓をぶち破り外へ飛び出していく。その後を長門と鶴屋先輩が追いかけるように窓から飛び降りた。あれ?ここ三階じゃなかったっけ?
「どうやらグラウンドの方に逃げたみたいだな!みんな追いかけて有紀と鶴屋先輩を援護するぞ!」
援護ったって、お前はできるだろうけど、ガタガタ震えてる朝比奈先輩と一般の女子部員(一姫は一応)にどう援護しろって言うんだ。追いかけまわせとか言うなよ。
あたし達が慌ただしくグラウンドに出るのと、巨大化した谷口サンタが野球部のホームラン防止ネットを乗り越えて逃走するのが同時だった。ハルヒコが慌てて、
「おい!こら!待てえ――――っ!!!」
と叫ぶがもう遅い。谷口はすでに暗闇の中に消えてしまった後だった。そういえば谷口の頭に赤い帽子がなかったような気がするが気のせいかね。
あたしがハルヒコが地団駄を踏んでいるのを見ていると、誰かがあたしの肩をひかえめに叩いた。振り返ると無表情の長門。
「どうした?」
「彼女の身体的異常の修正について報告することがある」
何だ?何か問題があったのか?
「あなたが考えていると思われる『彼女を逃がすことで身体的異常を修正できる』というのは間違い」
「・・・っ!」
一姫め。嘘をつきやがったな。
「嘘ではない。古泉一姫は誤認していただけ」
「・・・」
あたしは黙り込む。一姫は勘違いしていたのだとは長門が『間違い』と言った瞬間に気づいたのだが、それでもあたしがバカな頭をフル回転させた分の労力を考えると腹が立つ。また今度何か奢らせてやることにしよう。
長門は黒曜石のような瞳であたしの顔を見ながら、
「心配ない。逃がす前にナノマシンを注入して身体的異常を修正しておいた」
朝比奈先輩、あたしと来て、今度は谷口に噛みついたのか。
「そう」
長門は短く答えてからブレザーの内ポケットを探り出した。何を取り出すのか見ていると、ブレザーから抜き出された右手にはサンタが被っているような赤い帽子が握られていた。
「これ」
そう言って長門はそれをあたしに被せる。あたしはじっと長門の顔を見てから、
「これどうしたんだ?」
「拾った」
拾った、ね。なるほど。どうりで谷口が被ってなかったわけだ。
「うう〜〜〜っ!!サンタカムバ―――ック!!!」
ハルヒコの未練たらたらの叫び声がグラウンド中に響き渡った。
さて、ちなみに。
次の日、谷口がぐちゃぐちゃにしたコンピ研部室では。
「うわああああああんっ!!ボクのっ・・・ボクのパソコンがあああああっっ!!!」
というコンピ研部長の悲痛な叫びがSOS団アジトまで聞こえてきていたのは言うまでもない。
☆おしまい☆
2009年11月14日(土) 16:36:16 Modified by ID:kUasrCBzAw