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gunsringergirl_ss2 2009年10月21日(水) 20:58:58
ソルティ・ミルクチョコレート // アンジェリカ,マルコー,アマデオ,プリッシラ,ビアンキ
//参〇九// バレンタインデー&ホワイトデー// ,Vignette/,General /13927Byte/ Text// 2004-02-17
□□□GunslingerGirl 〜ガンスリンガーガール〜 哀の小劇場 ■■■
――「ソルティ・ミルクチョコレート」――
"いいかマルコー、今日は「愛の記念日」なんだぞ。 "
なるほど・・・確かに"愛の記念日"だな。しかし・・・不気味な微笑みで
ニラメっことは・・・あいつら、何をやっているんだ?
さっき本部棟と義体棟を結ぶ廊下でみたヒルシャーとトリエラを
思い出しながらマルコーは病室へと足を進めていた。
***
「いいかビアンキ!! 今、『義体でも感情のコントロールができるぞ』
なんて抜かしてみろ!!お前の頭は5秒で風通しが良くなるぞ!!」
「ああ・・・新鮮な空気を通して、お前を親友だと思っていた日々を後悔
させてもらうよ・・・もし君に出来るのならばな」
マルコーの後ろではオリガさんが青い顔をしながらも、今にも飛び
かかって関節を決める覚悟をしていた。
「・・・判ったよビアンキ。オーリャ・・・俺はそこまでバカじゃない・・・」
「オリガ・・・ちょっと席を外してくれないか・・・"親友"の話がしたい」
「い・・・いいんですか?ビアンキさん・・・」
「アンジェ達よりマルコーは遙かに年上なんだ・・・過ごし重ねた人生で
得て来た理性というものは既にあるだろう・・・そうだな?マルコー」
「ああ・・・そうだと自分自身を信じたいよ・・・」
***
"義体技師どもに痛烈な皮肉を言って発散するくらいの狡猾さを
持つ年にはなっているんだぞ・・・少なくともアンジェにあたるな。
これは開発医師としての意見じゃない。親友としての進言だ"
判ってるよビアンキ・・・でも技師どもを皮肉ればアンジェの命が
延びる訳でもない・・・更に空しくなるだけだ・・・貴様は親友だと言い
ながら、そんな俺の気持ちすら理解してくれないのか・・・
心の中の呟きは2月の冬景色もあって更にじわじわと痛む。
痛みを抱え込むように苦しそうな眼差しをしたマルコーは、まるで
心を決めるように深い溜息をすると、とある病室のドアをノックした。
「アンジェリカ・・・俺だ・・・入るぞ。」
最近は入院の間隔が頻繁になってきた・・・調整、稼働、その結果の
調整・・・動く度に何処かが不具合になる。
決して言いたくない"結論"を表す言葉が過ぎる・・・ちくしょう!!
「どうぞ、マルコーさん。お待ちしていました・・・」
目を伏せて部屋に入る・・・痛いのだ・・・ドアを開けて入室する自分を
見るアンジェの眼が・・・何も疑わず、何も下心を持たず、自分が病室を
訪れる事を手放しに喜ぶあの眼が・・・激しく痛いのだ。
「調子はどうだ・・・少しは楽になったか?」
「はい!!暫くしたら、足手まといにならない位には・・・」
「ふん・・・まだ気が早・・・・・・」
目を上げたマルコーの眼には真っ赤なパジャマと大きなリボンを
付けたアンジェリカが映っていた。
「・・・・・・アンジェ、何だその格好は? クリスマスは既に過ぎたぞ。」
「マルコーさん・・・これ・・・私の・・・」
まだ筋肉の制御不能の後遺症か・・・それとも・・・・・?
震える両手で差し出された、リボンの掛かった赤い包み紙の箱。
「ハッピー・・・バレンタイン・・・」
「・・・ああ、ハッピーバレンタイン、アンジェ・・・しかし、こんな
浮かれた事ばかり覚えている・・・」
"マルコー・・・君は大人だ・・・訓練無しでも制御できる歳だぞ・・・"
うるせぇ!!判ったよ!!親友だったら少しは信用しろ・・・。
心の中に現れたビアンキに返す心の中のマルコーがいる。
「・・・いや、ありがとうアンジェ・・・嬉しいよ。」
「ごめんなさいマルコーさん・・・少しでも覚えていることは・・・
やってみたい気がして・・・」
「いや・・・俺も口が過ぎた・・・いつもゴメンな。しかしアンジェ
からは久々のバレンタインの贈り物だな・・・」
「え???あの・・・去年は・・・」
やはり忘れている・・・苦々しい間隔が喉の奥を這いずり回る。
「去年は・・・空振りだった仕事の最中だったな・・・」
「・・・・・そう・・・そうでしたね。ど忘れしていました」
その間はアンジェが覚えていないことを問われたときに顕著な反応
だった・・・目標は現れず、仕事は空振りだった・・・しかし、仕事中に
禁断症状が発生して・・・去年のバレンタインは、俺の行った緊急注射が
アンジェへのプレゼントだった。
失った記憶を必死で探そうと狼狽するアンジェの眼が辛かった。
そうだ・・・アンジェもまた苦しんでいるんだ・・・マルコーは何度も
心の中で自分に言い聞かせていた。
***
「ふうん・・・やはりトリエラか」
「そうなんです・・・チョコのお使いを頼んだら、"せっかくの愛の記念日
なんだよっ!!"って、チョコの他にこんな真っ赤っかのを・・・私、何だか
とても恥ずかしかったんですけど・・・でもって・・・」
「いや・・・よく似合っている・・・可愛いぞ」
「・・・・・・・・・嬉しいです」
「だが、そういう浮かれたのも入院中ぐらいだな。実戦に出たら他人の
記憶に残るような派手な衣装は御法度だ。」
「はい・・・・・・・・」
今のうちに楽しむんだな・・・と言おうとする自分を、心の中のビアンキが
また睨み付ける。そうだな・・・俺にもリハビリが必要か・・・マルコーは思う。
「まあ入院中やプライベートでは出来るだけオシャレをした方がいいと
ビアンキ先生も言っていた。メリハリを付けるのも訓練だ」
「はい!!ありがとうございます!!」
そう言って笑うアンジェの笑顔は、未だ自分にとっては苦痛だ。
アンジェはいつまで・・・俺を俺と認知して・・・笑ってくれるのか・・・。
***
オフィスに戻ると、あのヒルシャーが普段は絶対しないようなニヤニヤと
不気味な雰囲気すら感じる笑顔を浮かべて書類を纏めていた。
側には真っ赤なハート形の包みが・・・なるほどなるほど。
"あのぉ・・・出来るだけ早く開けて・・・食べてください・・・"
マルコーはそう言っていたアンジェリカの顔を思い浮かべていた。
破るには愛の隠りすぎている包装だった・・・丁寧にテープをペーパー
ナイフを使って剥いでいく。
まるで、いつぞやにジョゼから聞いたヘンリエッタのようだな・・・。
そう思いながら包装を取ると四角いモカブラウンの箱が現れた。
蓋状になっている箱を開くと、そこには小さな正方体に切り分けられた
ココアパウダーを塗してある板状のチョコレートがあり、その真ん中には
ハートの飾りを付けた楊枝が添えられていた。
ココアパウダーの香ばしい香りに負けない、チョコレートの新鮮さを
証明するような湿気のある甘い香りがマルコーの鼻腔を擽る。
口上書きを見る・・・なるほど、生チョコレート・・・それもミルクタイプか。
これは早く食べてやらないとな・・・マルコーは早速、赤い楊枝を摘んだ。
一口含む・・・洋酒を含まない純粋のチョコレートと新鮮なミルクの味が
口いっぱいに広がった・・・普段、余りこの手の菓子を口にしないマルコーに
とっても、十分に陶酔できる"簡素にて真の"チョコらしいチョコだった。
ふぅん・・・あの子にしては上出来な選択じゃないか・・・実に美味しい。
そう思いながら二口めを含んだときだった・・・・・。
暫くの時間を置いてマルコーの喉がゴクリ・・・と鳴った。
それはチョコレートを飲み込む音ではなかった。
資料室から戻ったプリシッラが、マルコーを見つけて慌てて自分の
机に向かうと、ピンクのハート形をした紙包みを持って駆け寄った。
「マルコ〜さ〜ん ハイ!!これは私からの愛です!!・・・・・?????
マルコーさん?どしたんですか?」
マルコーは楊枝を持ったまま、少し俯き、言葉を失っていた。
「ほ〜らみろ・・・マルコーさんも手形乱発の愛ならイラねぇぞって!!」
アマデオが遠くからソッポを向いてチャチャを入れた。
「んもぉ!!じゃアマデオ、さっきの返してっ!! ・・・・・え?マルコーさん、
どうしたんですか?ちょっとマルコーさん!!」
チョコレートの箱を持ってマルコーは部屋を出た。
顔はしかめっ面・・・そして小走り・・・彼は、たまたま開いていた取調室の
中に飛び込むと、後ろ手に鍵を掛けた。
机の上にチョコの箱を置き、両手を机に支えて下を向く彼の顔から
数滴の透明な液体がポロポロとこぼれ落ちた。
***
・・・・・それは幸せな日々だった。
「マルコーさん!!はい!!ハッピーバレンタイン!!」
あの日もアンジェは赤い箱を差し出した。
「ありがとうアンジェ!!どれ、早速頂こうかな」
「マルコーさ〜ん!!この幸せ者ぉ〜!!ね、俺にも一つ!!」
「マルコーさん!!私にもアンジェの愛を一つちょうだいな!!」
「こらっ!!アマデオもプリッシラも手を出すなっ!!い〜か!!これは俺だけへの
アンジェの心なんだぞ!!どれどれ早速・・・・・う・・・・・・ううぅん・・・ん〜・・・」
額に皺を寄せるマルコーをアンジェが驚いて見上げる。
「ま、マルコーさん・・・お口に合いませんでしたか?」
「・・・ごめんなアンジェ、その〜・・・なんていうか・・・実は俺・・・洋酒のキツイの
とかドライフルーツ入りの少し酸っぱいのとかがダメなんだ・・・」
「ご・・・ごめんなさい!!」
「おいおい!!謝ることはない!!嬉しいよアンジェ・・・ほら、お返しだ」
「あ・・・・・マルコーさん・・・マルコーさん・・・」
マルコーはアンジェを片手で抱き寄せ、額に優しく口付けた。
「うぉ〜マルコーさん!!・・・顔に似合わず・・・やるねぇ・・・」
「アンジェよかったね〜!!オデコにだけどファーストキッスだよ〜」
「でもアンジェ、このチョコはいけそうだな・・・」
マルコーは箱の中の一つのチョコを取り出し、半分を食べると、その
歯形の浮かんだ半分をアンジェに見せた。
「うむうむ・・・やはりそうだ、ほら断面を見てごらん。こういうタイプの
ミルクチョコは好きなんだ・・・何だか子供っぽいんだがな」
「判りました・・・・・・・すみません、味も覚えますから・・・頂きます!!」
そういうとアンジェはマルコーの指にある食べかけのチョコを指ごと
口に含んだ・・・マルコーは驚きながらも頬を赤く染めた。
「あ・・・間接キッス!!」
「うひょ〜、アンジェもやるねぇ〜!!」
***
マルコーは続けて5個を素手で摘むと口に詰め込んだ。
口に溢れる甘さは、意図しなかった塩味で更に強調されて甘かった。
覚えていたんだ・・・少なくともこの味は・・・。
多分・・・二度と取り返せない時間を含んだ・・・懐かしい甘さだった。
おい!!愛の神様とやら!!あの時間を・・・あの時間を返せ!!
"運命"だのと抜かすなら、お前こそ残酷非道な悪魔だぞ!!
マルコーは顔を両手で覆った・・・指の隙間から涙がしみ出た。
日の当たらない取調室に、男の嗚咽がいつまでも響いた。
***
"・・・以上の担当官の証言から、味覚については記憶の固定が著しく、
この脳機能の解析により、薬害的健忘の防止を発見する足掛かりが
見つかるのではないかと思量される。"
MDビアンキはアンジェリカのカルテにそう記すと、窓の外に広がる
未だ春遠い2月の空を見上げた・・・春の来ない冬は無いと信じたかった。
それが余りに絶望的なものであっても・・・・・・。
"哀の小劇場" エンドテーマ → Misia-「果てしなく続くストーリー」
//参〇九// バレンタインデー&ホワイトデー// ,Vignette/,General /13927Byte/ Text// 2004-02-17
□□□GunslingerGirl 〜ガンスリンガーガール〜 哀の小劇場 ■■■
――「ソルティ・ミルクチョコレート」――
"いいかマルコー、今日は「愛の記念日」なんだぞ。 "
なるほど・・・確かに"愛の記念日"だな。しかし・・・不気味な微笑みで
ニラメっことは・・・あいつら、何をやっているんだ?
さっき本部棟と義体棟を結ぶ廊下でみたヒルシャーとトリエラを
思い出しながらマルコーは病室へと足を進めていた。
***
「いいかビアンキ!! 今、『義体でも感情のコントロールができるぞ』
なんて抜かしてみろ!!お前の頭は5秒で風通しが良くなるぞ!!」
「ああ・・・新鮮な空気を通して、お前を親友だと思っていた日々を後悔
させてもらうよ・・・もし君に出来るのならばな」
マルコーの後ろではオリガさんが青い顔をしながらも、今にも飛び
かかって関節を決める覚悟をしていた。
「・・・判ったよビアンキ。オーリャ・・・俺はそこまでバカじゃない・・・」
「オリガ・・・ちょっと席を外してくれないか・・・"親友"の話がしたい」
「い・・・いいんですか?ビアンキさん・・・」
「アンジェ達よりマルコーは遙かに年上なんだ・・・過ごし重ねた人生で
得て来た理性というものは既にあるだろう・・・そうだな?マルコー」
「ああ・・・そうだと自分自身を信じたいよ・・・」
***
"義体技師どもに痛烈な皮肉を言って発散するくらいの狡猾さを
持つ年にはなっているんだぞ・・・少なくともアンジェにあたるな。
これは開発医師としての意見じゃない。親友としての進言だ"
判ってるよビアンキ・・・でも技師どもを皮肉ればアンジェの命が
延びる訳でもない・・・更に空しくなるだけだ・・・貴様は親友だと言い
ながら、そんな俺の気持ちすら理解してくれないのか・・・
心の中の呟きは2月の冬景色もあって更にじわじわと痛む。
痛みを抱え込むように苦しそうな眼差しをしたマルコーは、まるで
心を決めるように深い溜息をすると、とある病室のドアをノックした。
「アンジェリカ・・・俺だ・・・入るぞ。」
最近は入院の間隔が頻繁になってきた・・・調整、稼働、その結果の
調整・・・動く度に何処かが不具合になる。
決して言いたくない"結論"を表す言葉が過ぎる・・・ちくしょう!!
「どうぞ、マルコーさん。お待ちしていました・・・」
目を伏せて部屋に入る・・・痛いのだ・・・ドアを開けて入室する自分を
見るアンジェの眼が・・・何も疑わず、何も下心を持たず、自分が病室を
訪れる事を手放しに喜ぶあの眼が・・・激しく痛いのだ。
「調子はどうだ・・・少しは楽になったか?」
「はい!!暫くしたら、足手まといにならない位には・・・」
「ふん・・・まだ気が早・・・・・・」
目を上げたマルコーの眼には真っ赤なパジャマと大きなリボンを
付けたアンジェリカが映っていた。
「・・・・・・アンジェ、何だその格好は? クリスマスは既に過ぎたぞ。」
「マルコーさん・・・これ・・・私の・・・」
まだ筋肉の制御不能の後遺症か・・・それとも・・・・・?
震える両手で差し出された、リボンの掛かった赤い包み紙の箱。
「ハッピー・・・バレンタイン・・・」
「・・・ああ、ハッピーバレンタイン、アンジェ・・・しかし、こんな
浮かれた事ばかり覚えている・・・」
"マルコー・・・君は大人だ・・・訓練無しでも制御できる歳だぞ・・・"
うるせぇ!!判ったよ!!親友だったら少しは信用しろ・・・。
心の中に現れたビアンキに返す心の中のマルコーがいる。
「・・・いや、ありがとうアンジェ・・・嬉しいよ。」
「ごめんなさいマルコーさん・・・少しでも覚えていることは・・・
やってみたい気がして・・・」
「いや・・・俺も口が過ぎた・・・いつもゴメンな。しかしアンジェ
からは久々のバレンタインの贈り物だな・・・」
「え???あの・・・去年は・・・」
やはり忘れている・・・苦々しい間隔が喉の奥を這いずり回る。
「去年は・・・空振りだった仕事の最中だったな・・・」
「・・・・・そう・・・そうでしたね。ど忘れしていました」
その間はアンジェが覚えていないことを問われたときに顕著な反応
だった・・・目標は現れず、仕事は空振りだった・・・しかし、仕事中に
禁断症状が発生して・・・去年のバレンタインは、俺の行った緊急注射が
アンジェへのプレゼントだった。
失った記憶を必死で探そうと狼狽するアンジェの眼が辛かった。
そうだ・・・アンジェもまた苦しんでいるんだ・・・マルコーは何度も
心の中で自分に言い聞かせていた。
***
「ふうん・・・やはりトリエラか」
「そうなんです・・・チョコのお使いを頼んだら、"せっかくの愛の記念日
なんだよっ!!"って、チョコの他にこんな真っ赤っかのを・・・私、何だか
とても恥ずかしかったんですけど・・・でもって・・・」
「いや・・・よく似合っている・・・可愛いぞ」
「・・・・・・・・・嬉しいです」
「だが、そういう浮かれたのも入院中ぐらいだな。実戦に出たら他人の
記憶に残るような派手な衣装は御法度だ。」
「はい・・・・・・・・」
今のうちに楽しむんだな・・・と言おうとする自分を、心の中のビアンキが
また睨み付ける。そうだな・・・俺にもリハビリが必要か・・・マルコーは思う。
「まあ入院中やプライベートでは出来るだけオシャレをした方がいいと
ビアンキ先生も言っていた。メリハリを付けるのも訓練だ」
「はい!!ありがとうございます!!」
そう言って笑うアンジェの笑顔は、未だ自分にとっては苦痛だ。
アンジェはいつまで・・・俺を俺と認知して・・・笑ってくれるのか・・・。
***
オフィスに戻ると、あのヒルシャーが普段は絶対しないようなニヤニヤと
不気味な雰囲気すら感じる笑顔を浮かべて書類を纏めていた。
側には真っ赤なハート形の包みが・・・なるほどなるほど。
"あのぉ・・・出来るだけ早く開けて・・・食べてください・・・"
マルコーはそう言っていたアンジェリカの顔を思い浮かべていた。
破るには愛の隠りすぎている包装だった・・・丁寧にテープをペーパー
ナイフを使って剥いでいく。
まるで、いつぞやにジョゼから聞いたヘンリエッタのようだな・・・。
そう思いながら包装を取ると四角いモカブラウンの箱が現れた。
蓋状になっている箱を開くと、そこには小さな正方体に切り分けられた
ココアパウダーを塗してある板状のチョコレートがあり、その真ん中には
ハートの飾りを付けた楊枝が添えられていた。
ココアパウダーの香ばしい香りに負けない、チョコレートの新鮮さを
証明するような湿気のある甘い香りがマルコーの鼻腔を擽る。
口上書きを見る・・・なるほど、生チョコレート・・・それもミルクタイプか。
これは早く食べてやらないとな・・・マルコーは早速、赤い楊枝を摘んだ。
一口含む・・・洋酒を含まない純粋のチョコレートと新鮮なミルクの味が
口いっぱいに広がった・・・普段、余りこの手の菓子を口にしないマルコーに
とっても、十分に陶酔できる"簡素にて真の"チョコらしいチョコだった。
ふぅん・・・あの子にしては上出来な選択じゃないか・・・実に美味しい。
そう思いながら二口めを含んだときだった・・・・・。
暫くの時間を置いてマルコーの喉がゴクリ・・・と鳴った。
それはチョコレートを飲み込む音ではなかった。
資料室から戻ったプリシッラが、マルコーを見つけて慌てて自分の
机に向かうと、ピンクのハート形をした紙包みを持って駆け寄った。
「マルコ〜さ〜ん ハイ!!これは私からの愛です!!・・・・・?????
マルコーさん?どしたんですか?」
マルコーは楊枝を持ったまま、少し俯き、言葉を失っていた。
「ほ〜らみろ・・・マルコーさんも手形乱発の愛ならイラねぇぞって!!」
アマデオが遠くからソッポを向いてチャチャを入れた。
「んもぉ!!じゃアマデオ、さっきの返してっ!! ・・・・・え?マルコーさん、
どうしたんですか?ちょっとマルコーさん!!」
チョコレートの箱を持ってマルコーは部屋を出た。
顔はしかめっ面・・・そして小走り・・・彼は、たまたま開いていた取調室の
中に飛び込むと、後ろ手に鍵を掛けた。
机の上にチョコの箱を置き、両手を机に支えて下を向く彼の顔から
数滴の透明な液体がポロポロとこぼれ落ちた。
***
・・・・・それは幸せな日々だった。
「マルコーさん!!はい!!ハッピーバレンタイン!!」
あの日もアンジェは赤い箱を差し出した。
「ありがとうアンジェ!!どれ、早速頂こうかな」
「マルコーさ〜ん!!この幸せ者ぉ〜!!ね、俺にも一つ!!」
「マルコーさん!!私にもアンジェの愛を一つちょうだいな!!」
「こらっ!!アマデオもプリッシラも手を出すなっ!!い〜か!!これは俺だけへの
アンジェの心なんだぞ!!どれどれ早速・・・・・う・・・・・・ううぅん・・・ん〜・・・」
額に皺を寄せるマルコーをアンジェが驚いて見上げる。
「ま、マルコーさん・・・お口に合いませんでしたか?」
「・・・ごめんなアンジェ、その〜・・・なんていうか・・・実は俺・・・洋酒のキツイの
とかドライフルーツ入りの少し酸っぱいのとかがダメなんだ・・・」
「ご・・・ごめんなさい!!」
「おいおい!!謝ることはない!!嬉しいよアンジェ・・・ほら、お返しだ」
「あ・・・・・マルコーさん・・・マルコーさん・・・」
マルコーはアンジェを片手で抱き寄せ、額に優しく口付けた。
「うぉ〜マルコーさん!!・・・顔に似合わず・・・やるねぇ・・・」
「アンジェよかったね〜!!オデコにだけどファーストキッスだよ〜」
「でもアンジェ、このチョコはいけそうだな・・・」
マルコーは箱の中の一つのチョコを取り出し、半分を食べると、その
歯形の浮かんだ半分をアンジェに見せた。
「うむうむ・・・やはりそうだ、ほら断面を見てごらん。こういうタイプの
ミルクチョコは好きなんだ・・・何だか子供っぽいんだがな」
「判りました・・・・・・・すみません、味も覚えますから・・・頂きます!!」
そういうとアンジェはマルコーの指にある食べかけのチョコを指ごと
口に含んだ・・・マルコーは驚きながらも頬を赤く染めた。
「あ・・・間接キッス!!」
「うひょ〜、アンジェもやるねぇ〜!!」
***
マルコーは続けて5個を素手で摘むと口に詰め込んだ。
口に溢れる甘さは、意図しなかった塩味で更に強調されて甘かった。
覚えていたんだ・・・少なくともこの味は・・・。
多分・・・二度と取り返せない時間を含んだ・・・懐かしい甘さだった。
おい!!愛の神様とやら!!あの時間を・・・あの時間を返せ!!
"運命"だのと抜かすなら、お前こそ残酷非道な悪魔だぞ!!
マルコーは顔を両手で覆った・・・指の隙間から涙がしみ出た。
日の当たらない取調室に、男の嗚咽がいつまでも響いた。
***
"・・・以上の担当官の証言から、味覚については記憶の固定が著しく、
この脳機能の解析により、薬害的健忘の防止を発見する足掛かりが
見つかるのではないかと思量される。"
MDビアンキはアンジェリカのカルテにそう記すと、窓の外に広がる
未だ春遠い2月の空を見上げた・・・春の来ない冬は無いと信じたかった。
それが余りに絶望的なものであっても・・・・・・。
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